novel

□始まるものと終わりゆくもの
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小さな胸の痛みが俺を苛む。
その痛みの正体がなんなのか、俺にはわからない。


「…お疲れさま」

休憩室に入ると先客がいた。
桃色の髪をした少女はライルを見て言葉少なにそれだけ返した。
ライルもお疲れさん、とだけ返す。
シンクでカップを洗う彼女を横目で確認した。

どうにも気まずい。
ライルはソファに身を沈めて天井を仰ぐ。
あのキス以降、事務的なこと以外で会話などしてない。要するに、和解もなにもあったわけではなく。
それにかなり時間が経ってるから話題にもしづらかった。
別に彼女が嫌いなワケじゃない。あの一件以降視線は対して感じない。
本当はあの時だって、頭では分かってたんだろう。感情が追い付かなかっただけで。
彼女が嫌いなワケじゃない。仲直りできないだけで。
兄を大切に思ってくれるのは好ましいところだし。

「…コーヒー、いる?」
「!…あ、ああ。頼む」

かけられた声に驚いてフェルトを見やると、彼女は何をそんなに驚いているのと逆に驚いていた。

…もしかして、気まずいと思ってたの俺だけ?

元々無口な子なのだろうか。
いや、少し手が震えてる。この一言だけでも勇気がいったに違いない。
ちょっと自分が情けなくなった。

「ミルクと砂糖は?」
「少し」

フェルトの背中を眺めながら、濯がれたカップが二つあることに気づく。

「誰かいたのか?」
「うん。アニューさん。2人でお茶したの」
「アニューと?」
「すれ違っちゃって、残念だったね。」

ことんと置かれたコーヒー。
フェルトは優しく笑んでいた。微笑ましそうに。
その表情からは、完全に俺を兄とは別個のものに見てるとうかがえた。
…好きなのはニールであって俺じゃない。そうわかる。
当たり前のことだ。そうなることを望んでいたはずだ。
なのに何故、少し切なくて胸がいたい?

「もう、大丈夫だから。重ねたりなんてしないわ。私はロックオンの代わりに貴方の幸せを願おうと思う」

変わろうと思うの。そう彼女は誇らしげに微笑んだ。
強い女の子の姿だ。眩しくて、こちらが痛いくらい。

「フェルト」
「刹那、どうしたの?」
「頼みたいことがある」
「トラブル?」
「否、私用だ」

珍しいね、と言いながらフェルトは呼びに来た刹那の元に向かう。
その背中を見ながら、年の近い二人が短くい言葉ながら長いやり取りをするのを聞いて息を吐いた。
何だろう、胸が痛む。ちくりちくりとほんの少し…不快だ。
やがていなくなった2人に俺は、彼女のいれてくれたコーヒーを少しずつ飲み始める。
絶妙なさじ加減のコーヒーはほの甘く苦かった。




*****



もう少し時間が必要かも、とフェルトは思う。
私は、家族としてアニューとライルを祝福したい。
だってお似合いだもの。
アニューはロックオンを知らないから重ねられる心配なんてないし…

「大丈夫か」
「うん。大分、痛くなくなったの」

でも、中々消えてくれそうにないわ。この痛み。





ライ←フェルからライ→フェルに転換。
アニューさんとフェルトは(ライルが絡まなければ)仲良し。


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