novel

□天使のわけまえ
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「ニール」
「お、なした?ちびっこ」
「ちびっこ言うな」

幼い2人の天使に、図書館にいたニールは本を探す手を止めた。
純白の大きな翼は綺麗に畳まれ、ココアブラウンの柔らかな髪と穏やかなナイルブルーの瞳を持つ彼は、その人柄も相まって天界で一番の美しい者と名高い。
そんな彼を将来有望とされる双子の天使が非常になついており、三人でいる姿は見るものを癒してくれた。

「よぉ兄さん…て、なんだ、刹那とフェルトもいたのか」

ニールと全く同じ顔を持つ、しかし雰囲気が違う男が窓から顔を出す。
フェルトはぱっと刹那の後ろに隠れて、刹那も彼を睨んだ。
そしてニールは呆れたような息を吐く。

「そんな警戒しなくてもいーだろ、2人とも」
「うるさい」
「…ライル…」
「ライル、お前さんはまたそんなとっから…バレる前に中に入っちまえ」

よ、と軽い掛け声と一緒に窓から室内に入ったライルは、広げていた翼を畳む。
フェルトはライルが苦手だった。彼は優しいニールと違ってよく意地悪をしてくるから。
フェルトに意地悪するから刹那も兄としてライルが気に食わないし、敵だと認識している。
ニールからしてみれば、ライルの意地悪は好きな子ほど苛めたい子どもの心理そのもので、そんな分かりにくい事ではライルの好意はフェルトに伝わらないだろうとため息を吐く以外にない。

「なあ兄さん、今度の弓術大会出場すんだろ?登録した?」
「いんや、仕事の見通しつかなくてなぁ…まだしてねぇ」
「大会ならお偉いさんも休みくれるって。」

だがな、と唸っていると、じっと見つめてくる二対の瞳に気づく。
物言いたげな幼いちびっこ天使の頭に手をのせて言いたいことがあるなら言え、と促す。

「おれたちにも弓おしえて」
「がんばるから」

ニールの服の裾を掴んで上目使いの、完璧お願いモードだ。ニールは彼らのコレに勝てた試しがない。
ニールは弓の名手で、天界の大会総なめ、悪魔との戦いでも素晴らしい武勲をたてている。そんな彼に憧れているものは少なくない。
だが、位の高い天使であるニールにおいそれと近づける者などそうそうなく、昔から可愛がっている双子の天使以外の見習い天使は彼を遠巻きにしか見ることができない。
彼の性格上、見習い天使であろうと来るもの拒まずなのだが、畏縮してしまうのだろう。

「刹那は近接戦闘タイプだろ?弓習ったって」
「おれがガンダムだ」
「あー…マイスターになりたいのな。そしたら全武器扱えなきゃいけないもんな」

こっくりと刹那は頷いた。
ガンダムとは天界の昔話に出てくる全能であり平和の象徴である。
その名を冠したガンダムマイスターは全ての武器や魔法をマスターした者に与えられる最高位の称号だ。
ちなみにニールはガンダムマイスターである。
将来有望の天使である幼い刹那はガンダムにひどく憧れていて、口癖がこの『俺ガン』だ。

「わかったわかった、見てやるよ。フェルトは?フェルトもマイスターに?」
「ううん。わたしはトレミーの方。刹那のサポートするの」

後方支援専門の最高位のトレミーの称号には遠距離攻撃の術を学ばなければならない。
教えて教えて、とせがむ可愛い可愛い弟妹に、ニールは苦笑いで了承した。
すると抱きついてきた弟妹を受け止めてやると、じっと見つめてくる視線により笑みが深まる。

「羨ましいか?ライル」
「…俺も混ぜてー!」
「うわ、ちょっおまっ!」

ニールに対してなのか刹那とフェルトに対してなのか分からない嫉妬に、ライルはまとめて三人に抱きついた。
その重量と衝撃にニールはよろめき刹那は潰され、そのまま床にバタンと倒れ込んだ。
さすがにフェルトへの負担はかからないよう計らっているライルであったが、彼女の床へぶつかる衝撃を和らげたのはニールだった。
そんなニールの頭だけでも守ろうと咄嗟に小さな紅葉の手を伸ばして保護した刹那は、やはり将来有望なのだ。その年でこんな機転がきくなんて、とライルは感心した。

「ライル、重いっ刹那が潰れる!」

フェルトは避けて刹那とニールに覆い被さっていたライルは、悪い、と言って退けた。
左腕でフェルトを守り、右腕で刹那が潰されないよう抱き込んで守っていたニールは、深い深いため息をついて上半身を起こす。

「いってぇ…お前もうちったぁ加減しろよ」

白い翼を動かして支障のないことを確認すると、ニールはまだ固まってる双子に微笑みかけた。
事態がうまく飲み込めていないらしい。
刹那の翼にも怪我が無いことを確認していると、ふと我に返った刹那がライルを無言で睨み付けた。
フェルトは心配そうにニールの頭の下敷きになった刹那の両手を見たあと、火花を散らすライルと兄におろおろしながらニールを見上げる。

「はいはいそこまで。ほら刹那。弓技場行こうぜ。」
「…ああ。…て何故アンタまでついてくるんだ、ライル」
「えー。兄さん一人で二人の指導するより、俺も一緒にマンツーマンで指導したほうがいいだろ?」
「まあなあ…」
「俺だって名うてのアーチャーなんだぜ?」
「知っている。…フェルトに近づくなっ」

べり、とフェルトからライルを引き離すと刹那は警戒心剥き出しでライルを威嚇する。
翼の上向き具合で本気の程度が窺えた。

「んー…なら刹那がライルに見てもらうか?」
「嫌だ」
「じゃあフェルトがライルに…」
「フェルトが危ない」
「刹那、私は構わない」
「ダメだ」
「お前ね…」

そりゃあ双子の妹を思えばライルのそばには置きたくないだろう。
その気持ちは分かる、とニールは相づちをうち、ライルは胡散臭いほど爽やかに笑っていた。
フェルトはどうすればいいだろう?と首を傾げるばかりだ。

「わかったわかった、2人とも俺がみるよ。順番な」
「すまない。」
「いーってことよ、じゃ刹那から。フェルトはそこで見学。OK?」
「わかった」

弓を持ち、訓練を始めた刹那。
思うように事は運ばず命中率は右肩下がりだ。
しかしニールは咎めなかった。その理由がわかるから。
タイム、と呟いた声に気楽に答えた。
そして振り返ったその視線の先には、

「フェルトの肩を抱くなっライル!」
「えー」
「このロリコンが!万死に値するっ」
「んー大分ティエリアに感化されてきたなぁ」
「だって暇だし、将来美人になるフェルトと仲良くなりたいなぁって。苦手意識とろうかと」

な、とよりフェルトの肩を抱き寄せたライルに彼女の兄はキレた。

「刹那・F・セイエイ」

下向きに弓を静かに引くと

「目標を駆逐する!!」

一瞬で狙いを定めて矢を放った。
その矢は先程までの調子の悪さから一転して、ライルの顔スレスレ、髪を一房貫き落とした。
冷や汗をかく暇もなく、第二射が放たれる。

「ぬぉああああっ」

逃げ惑うライルからフェルトを自分の元に避難させたニールは、才能あるよなぁと呟き、フェルトも同意した。
これはこれで良い訓練だ。
ライルから抜け落ち、若しくは貫き落とされた白い羽根の後始末を考えながらニールは弓をフェルトに見せた。

「訓練、するか?」

フェルトはこっくりと頷いて、少し頬を染めながらも指導を受け始めたのだった。






天使の意味がなかった。
ライルは刹那の天敵。でもライルはからかって遊んでるフシがある。
ニールは溜め息吐きまくりの幸せ逃げまくり。



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