novel

□call my name
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「ロックオン」
「ロックオン・ストラトス」
「ライル」
「ジーン1」

そう皆は呼ぶ。
俺の名を、俺を呼ぶ。


ただ一人を除いて。



『ケルディムへタイミングを譲渡』
『ケルディム、発進どうぞ』

凜とした声が発進シークエンスを進め、俺に状態を伝える。
彼女の声で名前を呼ばれたことは、まだ、ない。
彼女に話しかけられることは主に必要な事であり事務的なことばかりだ。
それも目で話しかけられるから名前なんて呼ばれない。
兄と重ねているのかと思っていたが、だがアレ以来そういう意味を持った視線は感じない。
彼女が言う俺を指す言葉。それは『ケルディム』以外にない。
そしてケルディムは搭乗機であって俺ではない。

通路を進んでいると、桃色の髪がふわりふわりと揺れながら角を曲がり背を向けた。
こちらには気づいていない。

「フェルト」
「…?」

元来無口な方とは思っていた。
名前を呼べば振り返って何?と首をかしげる。
用がなければ話しかけてはいけないようだ…俺は。
それでもこの際聞いてしまえと口を開く。

「なんで呼んでくんないの?俺の名前」

ひゅっと一瞬息を飲んだ彼女は、それでもその息を吐き出して苦く笑って見せた。
いつか聞かれると思ってた、と。

「…ごめんなさい」
「いや、謝罪が聞きたい訳じゃねぇんだけど。」
「でも、失礼なことよ。ごめんなさい」

重ねて謝られて、彼女が俺の名前を呼ばないのは意図的だと知れる。

「ごめんなさい、まだ私の中でロックオンはニールなの。ロックオンと呼んでしまえば、また彼と重ねてしまうわ。」

そんなことないような、そんな強い瞳で彼女は言い切った。
だから呼べない、と。

「だったらライルでいい。そっちで呼べばいい。」
「ダメ。そう呼んでいいのは彼女だけよ。」

だから私は貴方を呼ぶ名を持たない、と苦笑する。
それからもう一度謝罪を口にした。
苦しさが胸に広がる。
彼女の苦笑は悲しみの現れだ。
無理をしている。
それがわかるのに、俺は手を出すことを許されはしない。
彼女の悲しみは苦しみは、強がりで隠されている。
『ロックオン』が手を伸ばせば、その強がりは瓦解してきっともう立ち直れはしない。そんな脆いものを彼女は抱えて笑っている。

俺なんかが中途半端に手を伸ばしてはいけない存在。

「ごめんなさい、いつか、ロックオンて呼んでみせるから」

ニールを想い出にしてみせる。前を向いて変わってみせる。
固い決意を見せつけられたようだ。

苦しい、泣きそう、そう彼女が笑みの向こうで思っているのに。
それでも瞳の強さは変わらなくて。

神聖すぎて近づけない、そう思った。



いつか来るといい。
彼女にライルと呼ばれる日が。



終。
…名前を呼んでくれないフェルトにヤキモキ。
自分にはアニューがいるから中途半端に手を出してはいけない。
でも天秤は傾き始めた…みたいな。

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