novel

□裏腹な言葉
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「…っ近付かないで!」

キッと睨み付けられてライルはたじろいだ。

「最低、軽薄、不潔、甲斐性なし、女の敵!」

普段無口な彼女からぽんぽん出る罵倒に呆気にとられて、今まで彼女に苦言を言っていた口がポカンと音もなく開く。
涙を溜めた彼女は最後に

「だいっきらい!」

と爆弾を投下して走り去っていく。
身を翻した瞬間涙が宙に散ったのは見間違いではない。
あっという間に消えた背中。
おかしい、ちょっと説教していたのは自分のはずなのに、何で責められてあそこまでいわれなきゃならないんだ。

「…誤解、だって…アレは」

ぐさりと胸に深く突き刺さった、大嫌いと書かれた太い矢に、ライルは項垂れた。
通路に、シクシクとしゃがみこむ大の男は大変気持ち悪かったとはラッセの談である。



*****



「兄さぁあんっ!」
「あ?」

自動ドアも抉じ開けて入ってきた弟にニールは読書を中断した。
良い年してコドモな部分が多分にある双子の弟は、勢いよくニールの前までやってきて泣きつく。
普段はコンプレックスから懐いて来ないくせに、困ると直ぐこれだ。

「フェルトに、フェルトに大嫌いって言われた…」
「そりゃお前が悪いな」
「事情も聞かずに言う?!」
「フェルトにそこまで言わせたってなるとなぁ…ほれ、事情話せよ。」

小さい子を宥めるようにニールは弟の頭を撫でてやりながら、ポツポツ語り始めた事情とやらに耳を傾ける。
事の始まりは、フェルトが刹那やティエリアと談笑していたことからだった。
少しずつ表情が豊かになってきたフェルトは、彼らにもはにかむような可愛らしい笑みを向け、喋る事が苦手な割によく話していたと言う。
――余談だが、ここまで聞いた時点でニールは事態を正確に掴みライルが悪いと判断を下していた。
そして、その他大勢の男がフェルトが可愛いだとか好きだとか、狙ってるという話もミミタコの状態だった。
それが恋人として面白くないライルは、遂にフェルトに言ってしまったのだ。自分の独占欲とヤキモチを。
『あんまり他の奴らに愛想振り撒いてると、後々厄介なことになるぜ』
要約すると、俺以外のヤツに良い顔すんな、と。

「大体刹那やティエリアにも良い顔しすぎなんだよなー。俺といるときより楽しそうな時あるし。どんなでもフェルトは可愛いし、好きになるのわかるけどさ」
「あーはいはい。それで?」

ぼやく弟に早く話を進めろとニールは促す。
段々ノロケに聞こえてきた。

「したら、貴方はどうなの?て返ってきた」
「お」
「他の女性陣と話してたりアニューと二人でダベってたとこ見られてたらしくてさ。」
「ヒトのこと言えないってか。で?」
「俺のこたぁどーでもいーって返した。女の子は愛でるもんだろ」
「…バカだろお前」
「うっ…で、近付かないでに始まり、最低、軽薄、不潔、甲斐性なし、女の敵!とだいっきらいって…言われた」

よくもまああのフェルトにそこまで言わせたものだ。
改めてニールは感心した。そしてソレをニールは否定しなかった。
だいっきらい!がよほど堪えたらしく、自分が抱いた苛立ちそっちのけで落ち込んでいる。沈みようが半端ではない。
ニールからしてみれば呆れしかない話なのだが、本人には深刻な事態だ。

「はぁ…お前ね、とりあえず謝ってこい。ていうか何でフェルトが怒ったのか、頭冷やして考えてこい」
「……そうする」

よろよろと去っていった弟に、ニールは深い深いため息をついた。
本当に同じ遺伝子を持つ唯一の弟なんだろうか。
まあ暫くしたら様子を見に行こう、と本を再開させたところで再び鳴った来客を告げる音。
千客万来だと思いつつ応対すれば、そこには

「ニール、ちょっといいか?」

刹那に連れられた、目を腫らしたフェルトがいた。



*****



フェルトが泣きながら走っていたら刹那に衝突したらしい。
刹那はとにかく口下手な彼なりに懸命に慰めて事情を聞いて、ライルを殴りに行くより先にニールの元へ向かうことにした。
困った時にはとりあえずニールに聞けば良い。

「ニール、私、私…っ」

安心したのか、ニールの姿を見てまたぷくりと涙を溜めたフェルト。
ぎく、と肩を強張らせた男二人はそのまま次の句を待つ。

「ライルに大嫌いって、いっちゃった…」

心にもない、大好きな人に大嫌いという言葉を言ってしまったことはフェルト自身を大きく傷つけたようだ。

「他にもたくさん…どうしよう…私、嫌われちゃったかも…」

自己嫌悪にどんどん陥っていくフェルトの髪をニールは撫でてあやす。

「ライルの前だと、どうしても素直になれないの…ホントとは違うこと言っちゃう…可愛くないよね。アニューさんの方が、綺麗で大人で可愛いから、だから」
「素直になれなかったり不安になったり…ヤキモチやいたりするのは、恋をすれば普通の事だよ」
「でも、私、本当に酷いこと言ったの。」
「なら、ここばかりは素直に謝らなきゃな。大丈夫、フェルトはわかってるだろ」

こくん、とフェルトは小さく頷いた。
その瞬間、部屋の扉が開いて、いってぇ!との声と一緒に左頬を赤く腫らしたライルが入ってきた。
刹那がいつの間にやらライルを探しに行っていたらしい。ライルを部屋に蹴り入れたのは彼だ。

目があったフェルトとライルはピタリと動きを止めた。
ニールは二人を向き合わせて、お邪魔しないようにと刹那を引き連れて部屋を後にした。

「あ…」
「う…」

二人してもじもじと視線をあちこちに飛ばして中々意味のある言葉を発しない。
ライルは無意味に頭をかき、フェルトはきゅっと服の裾を握った。
やがて意を決して

「「ごめん!」」

同時に謝る。
異口同音のその言葉にはっとして、視線がかち合う。
外されそうになった視線に、フェルトが反射的にライルの腕を掴んだ。
バツが悪そうに顔を背けるライルに、フェルトは泣きそうになる。

「す、好きなのっ!」
「え」
「大嫌いなんて…うそ、だから…っ!」

ライルの顔が見ていられなくてフェルトは俯く。
腕を掴む手だけが震えて力が籠る。
そんな彼女が小さく見えて、そして堪らなくなってライルはフェルトを思い切り抱き締めた。
両腕に余る柔らかくて小さな身体。
自分の反応を窺っている彼女が愛しくて愛しくて仕方がない。

「俺こそ、ごめん…ヤキモチやいて、自分のこと棚上げしてた」
「私も…ヤキモチ妬いたの。…酷いこと言ってごめんね」

背中に回った細い腕と、自分の胸にすりよるその仕草に、際限なく愛しさが込み上げて

「愛してる、」

仲直りのキスをした。

結局、お互いが好きすぎての喧嘩だったんだな。
ライルはそう囁きフェルトは頬を染めた。





オマケ・追い出された二人↓
「あー…いつんなったら入れるかね。俺の部屋」
「…いつでも良いじゃないか」
「馬に蹴られたいんか、お前さんは」
「結局なんだったんだ…」
「アレだよ、痴話喧嘩。夫婦喧嘩は犬も食わないってな」
「…わからん」
「お子さまにはまだ早いってな。それよか、ライルの頬を殴ったのお前か?」
「フェルトを泣かしたから、とりあえず一発」
「…オトコマエだな。」


ホントに終われ。
ナチュラルにニールいるからパラレルか生存ルートです!(←適当)
花夜さまに捧げます。…リクに沿えてない、気が…
こんなもので良ければどうぞお受け取りくださいまし!返品可です!




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