novel

□はじめての
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沙慈・クロスロードにルイス・ハレヴィはデートなるものを要求していた。
それに首をかしげた刹那にデートも知らないのかとルイスが噛み付いてくる。

「デートって言うのは二人でお出かけすることだよ。大抵恋人同士が、かな」
「こいびとどうし…」
「恋愛の初歩中の初歩ね!デートすらしてくれない男はダメよ!」

ピクリとそれに反応した刹那は表情を無表情から難しい顔へと変化させていた。
付き合っているのならそれは当然だというルイスにますます眉間にしわがよっていく。
理解できていないんじゃないかと沙慈は思ったが、

「了解した。」

そう一言だけ言って刹那は教室から出て行ったのであった。
そんな刹那にぽかんとあっけに取られた二人はその背中を簡単に見送ってしまう。

「了解って…」
「もしかして…あの刹那に恋人がいるとでも言うの?!」

追求し損ねた!とルイスはだん、と床を踏みつけた。



*****



「デートとはどういうものなんだ?」

刹那はマンションに帰るなり、隣室に住む大学生の兄貴分のところへ押しかけた。
あの場で『デート』なるものを追求すればルイスがうるさいだろう事を予測しての行動だ。
世間一般の常識に自分が疎いことは重々承知していたし、この兄貴分はそんな自分に一般常識を教えてくれた人物なので、恥ずかしがる必要もない。
制服のブレザーのままやってきた弟分に悪い顔はせず、茶菓子とミルクティーを入れてやった彼は、意表を付かれたように面食らって一瞬動きを止めた。

「ニール?」
「いや、いやなんでもない。そうか、刹那がそういうこと聞いてくるようになったとはなぁ…お兄ちゃん嬉しいよ」
「嬉しいのか?」
「まあな。デートねぇ。フェルトとだろ?」
「ああ」
「お前が聞きたいのは、何をすればいいのか、だろ。何処へいくのかとか」
「そうだ」
「とりあえず、デートってのはお互いが仲良くなるために二人で出かけたりするんだよ。だから、フェルトの好きなところとか物とかよく考えるんだな」
「……好きなもの…」
「ハロって言う答えはなしな。」
「………」

二人ともインドアだしなぁ。とニールも腕を組んでうんうん唸る。
彼もまた、二人を連れてどこかへ出かけるときには苦労したものだ。

「とりあえず、俺はお前さんがどこかに連れてってやろうっていう気持ちだけでもフェルトは喜ぶと思うな」
「だが、それだけでは…」
「あー…現役高校生の定番デートといえば…」

映画、ショッピング、お茶する、ボウリングにカラオケ、あと遊園地に動物園…
指折りあげていくニールが言う定番のデートコースに刹那は真剣に耳を傾けていた。
彼女が喜びそうなところ。となると、とりあえずカラオケは却下だな。というのは二人して思った。

「あとそうだな、自分のお気に入りの場所につれてってやるとか。」
「お気に入りの?」
「あるだろ、ほら、昔怒られた…」



*****


「でかける…?」
「ああ。土曜、空いていたらでいいんだが」
「大丈夫。行く」
「そうか、よかった。なら9時に……」

電話を終えて、フェルトはきゅっと携帯を抱きしめた。
きっと今、顔が赤い。
あの刹那からデートに誘われたのだ。これがどれほどの重大なことか、彼を知る人ならみな驚くだろう。
学校が違うからなかなか会う機会が少なくて、しかも世間一般に疎い自分と刹那はただ一緒にいるだけのことが多かった。
見かねたニールが自分達を連れ出してくれたり、姉貴分のクリスティナに無理やりショッピングに付き合わされたりしていたが。
今度は二人だけで出かけるのだ。

「どうしよう、何を着ていけばいいんだろう、どうすればいいんだろう」

何を着るかなんて、刹那は気にも留めないだろうけれど、やはり女の子であるフェルトは気にするところだ。
どうしたらいいだろう、何をすれば言いのだろう。
あわあわとフェルトは困ったときの兄貴分に電話していた。

「ニール、どうしよう」
「んー?刹那にデートに誘われたって?」
「え、ど、どうして、それを……」
「おにーさんに分からないことはありません。で?」
「ど、どうすればいいのか全く分かんなくて」
「刹那とデートが嫌なわけじゃないんだろ?」
「うん、そんなわけ、ない」
「ならいつものフェルトのままでいいんだって」
「でも、初めてのデート…だし」
「そーゆーことはだな、クリスに聞いた方がいいんじゃないか?」
「……だって、遊ばれちゃう…」
「……まあ、そうだろうな。でも、男の俺よりは的確なアドバイスくれるだろ」
「うん…そうだね。」
「大丈夫大丈夫。刹那もめかし込ませるからな、楽しみにしとけよー」

どうやらニールは刹那にとられてしまったらしい。しかし、冷静になってみると、こういうことは姉貴分のクリスに相談するべきで、彼に相談しても困るだろう。
自分はよほど動揺していたらしい。
そして動揺したまま、今度はクリスの番号を呼び出した。



*****



土曜日。
クリスティナが朝早くから押しかけてきて、化粧も服も全部整えられた。
完璧な出立ちで、約束の10分前に到着した。そこにはもう刹那の姿があって。

「刹那…」
「フェルト…」

刹那の姿はいつもよりおしゃれな格好で、時折女の子の視線を集めていた。
二人で向かい合って、気恥ずかしくて押し黙ってしまう。

「……刹那、かっこいいよ」
「フェルトも可愛い」

お互いそれが最大限の賛辞で、くすりと笑い合うと刹那はフェルトの手をとり歩き出す。
ふわふわと気持ちが良い日和で公園の中を散策する。
小鳥の歌声も、噴水の流れる音も時の流れを緩やかに感じさせ、最初にあった緊張も溶かしてゆく。
最初は映画館だ。古典的なラブロマンスで、それが刹那の趣味ではないのは明らかだった。
その映画で迂闊にも泣きそうになったフェルトに刹那は冷や汗をかいたが、黙って手を引いて喫茶店に入る。
フェルトが落ち着いたところで、次は有名すぎて逆に来た事のなかった地元の観光名所をめぐって、公園で一休み。
定番だと思われるデートコース。ニールの助言を聞きき四苦八苦しながら考えてくれたのだろう。フェルトにはそれが一番うれしかった。
在り来たりでもいい、べただと言われようがこれが刹那とフェルトのあり方なのだ。

「ありがと、刹那」
「…礼を言われるようなことはまだしてない」
「…え?」
「行こう。連れて行きたいところがあるんだ」

手をとり立たされて、電車に乗る。それは刹那の自宅がある方向で。
帰るのだろうか?そう首をかしげていると、マンションとは違う道に入り、所謂裏林に入り抜け道を行く。
道なき道を歩きぬいてたどり着いたそこは、小さな丘の上。

「この上だ。」
「上って…樹の?」
「ああ」

身軽に樹を登った刹那が上からフェルトに手を差し出す。
それに応じて、フェルトも樹を登り、二人並んで太い枝の上に腰掛けた。
そしてフェルトは目に飛び込んできたものに大きく感嘆する。

「きれい…」
「…子どもの時、見つけたんだ」

夕日が街を燃やす様が一望出来る。すべてがオレンジと朱色のグラデーションに染められていた。

「ニールと俺の、秘密の場所だった。この景色を見たら帰るのにちょうどいい時間だったんだ」
「秘密の場所…いいの?私が…」
「フェルトだから、見せたかったし教えておきたかった」

そういう刹那はほんの少しだけ照れたのか、そっぽ向いてしまった。
ふふ、とフェルトは笑って、刹那の方に頭を寄せた。
嬉しくて変な顔をしているに違いない。

「刹那、大好き」
「…俺もだ」

二人の赤い顔は夕日が隠してくれていた。




終われ。

「うん、健全なデートだったな」
「えー!つまんなーい!」
「ていうか俺はどんな顔して刹那がラブロマンス見てたか知りたいところだな」
「刹那も泣くと思ったのになー…」
「…失敗させたいんだか成功させたいんだか…」
「ていうか、フツーあんな道なき道を初デートで女の子に通らせないわよね」
「そこは刹那だからいんじゃね?」




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