novel

□悼む日
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ふわふわと漂う雫。
それを刹那はぼんやりと見つめる。
眠っていても繋いだ手から力が抜けることはなく、肩にかかる重みに動くことも出来ない。

「………」

すんすんと泣いている彼女を見てしまってそのまま素通りできずに、かといって上手く慰められるわけでもなく、刹那はただ狼狽えて隣に座ることにした。
泣いている理由に心当たりがあるだけに、下手に口を開くことはしなかった。
今は眠ってしまった彼女は、一言だけ『甘えてごめんね』と漏らした。そして、『死なないで』とも。
了解、とだけ返して確かめるように手を握った。今は間違いなく生きていると示すように。

そしてそのまま暫く経ち、彼女は眠ってしまった。
動くに動けずに、刹那は無重力でふよふよと漂う彼女の溢した丸い雫を眺めて、過去に想いを馳せた。
生きてきた中で、決して長いとはいえない年月を。優しい彼と過ごした日々を。

「刹那、整備の――…邪魔をした」
「いや、構わない」

扉が開いて、端末を片手に入ってきたティエリアが直ぐに回れ右しようとしたのを刹那は防ぐ。
ちょいちょいと繋がれていない手を動かし端末を寄越せと催促する。

「眠っているのか」
「ああ」
「…泣いていたのか」
「…ああ」
「君は泣かないのか」
「……」
「今日はロックオンの、」

「ニールの命日だろう」

刹那は応えずに淡々と端末に目を通す。
その表情は窺えない。

「そういうお前はどうなんだ」
「…」
「目が赤いぞ」
「元からだ」
「……」

以前のティエリアからは考えられない返答。刹那とて前は質問を同じ質問で返すことはしなかった。
ティエリアは上着をフェルトにかけると、無言で刹那の隣に座る。

「……」

沈黙が場を支配する。
聞こえるのは彼女の寝息だけ。そこにはりつめた緊張感はない。

「俺の分は、フェルトが泣いてくれる」

唐突に先ほどの質問の答えが返ってくる。
ティエリアは驚かずに、そうか、と頷く。

「僕の分も、フェルトが泣いてくれるだろうか」
「…多分」
「何故だろうな。君が一番彼に近くて、だからなのか一番危うく感じる」
「……」
「フェルトも同じだ。…君まで失うのかと不安になる」

戦う以上、常に生死は賭けている。
四年前のこの日、それは身をもって思い知った。
誰が死ぬかわからない。
覚悟はある。だが不安なものは不安だ。

「俺は死なない」
「わかっている」

口先ではそう言っていても、やはり危うく感じるから。
ティエリアはふ、と口許を緩めた。

「少し安心した。彼女が君を繋ぎ止めることがわかったからな。」
「は?」
「僕も追い縋ろう。2人がかりで君を繋ぎ止める。彼もきっとそう望む。君たちを見守ることを、きっと」

刹那はワケがわからないという表情をしたが、ティエリアは僅かばかり笑むだけだ。
再び沈黙が降りて、しかし暫くすると寝息が2つ重なりもう片方の肩にも重みがかかる。
ティエリアまで眠ってしまったらしい。
刹那は息を吐いて宙を見つめた。
ティエリアも感傷的になって泣いていたのだろう。ろくに眠ってもいないのは顔を見ればわかる。
ふたりぶん、と思った。
この2人が泣いてくれるから、自分は振り返らずにいられるのだろう。
あの男は罪作りだ。じんわりと膨らむ想いに彼の笑顔を思いだし、鼻の奥が痛くなる。
お前なら、この2人を受け止めただろう。ロックオン。


「刹那ー教官殿知ら、ね…?」
「此処にいる」
「うわー両手に花だな、羨ましい。どっちか譲れよ」
「…ティエリアに聞かれたら張り飛ばされるぞ」
「そいつは勘弁」




おわれ
無重力なのにソファに座って肩預けておねむ?ていうツッコミは自分でしました。
低重力なんだよきっと!




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