novel

□まいごのうさぎ
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白い白いうさぎさん。
お兄さんの黒耳うさぎとはぐれて泣いていた。

暗い森の中、足も怪我してどうすることもできなくて泣いていた。
森の動物たちが心配そうに白いうさぎを囲んでいた。
だけど、ガサリと茂みが鳴って皆逃げ出した。
うさぎは気づかず泣いていた。

「あ、ウサギ」

人間の猟師が白いうさぎを見つけてしまいました。
猟師はとても怖いものと森のみんなは知ってます。
鉄砲で撃たれて食べられてしまいます。けれど恐ろしい狼や熊もやっつけてくれます。
小さな動物は助けてもらったこともあります。
でも怖いものは怖いので、逃げ遅れたうさぎは怯えてしまいました。

――お兄ちゃん、助けて…!

か弱いうさぎなのにとても強い熊を倒してしまったお兄ちゃんうさぎ。
白いうさぎは、強くてカッコよくて大好きなお兄ちゃんを心の中で叫びました。

「兄さん、今日の夕飯見つけた」

猟師が呼び掛けると、もうひとり、同じ顔の猟師が現れました。
あまりの恐ろしさにうさぎは倒れてしまいそうです。
晩御飯と最初の猟師は言いました。
猟師は自分を食べるつもりなのです。

「かわいいし柔らかそうだし、すっげ美味そう」
「…ライル、お前な…まだ子うさぎだろう。この子」
「羊だって子羊の方が肉美味しいじゃん」

2人目の猟師は呆れたように言いました。
そしてうさぎに近づいてきます。
手を伸ばしてきて、食べられちゃうとうさぎは身構えました。

「目が真っ赤だ。どうした?親とはぐれたか?」

しかし、猟師の手はうさぎの頭を撫でます。
ふわふわととっても優しい手つきだったので、うさぎも恐る恐る顔をあげました。

「た…食べないの…?」
「ん?」
「だって、今」
「無駄な猟はしない主義なんだ、俺は。だから食べないさ」
「ほんとう?」
「ほんとう。こんなに泣いて赤い目した子うさぎさん食べたら胸が痛むし」

やわやわと耳を撫でてくれる手はとっても気持ちよくて、足の手当てもしてくれました。
うさぎは二人目の猟師を信じることにしました。
うさぎはほんわか笑って、気が抜けて腰を抜かしてしまいました。
とりあえず、命は助かったみたいです。
1人目の猟師はとっても怖いけれど、2人目の猟師はいい人だとうさぎは思ったのでした。

「俺はニール。君は?」
「フェルト…」
「フェルト、あっちはライル。俺の弟」

紹介されて一歩踏み出してきたライルと言う猟師にうさぎフェルトは震えました。
さっきこの猟師はフェルトを食べると言っていたのです。
優しそうなニールは食べないと言いましたが、彼も食べないということにはなりません。

「うっわ、そんなあからさまだと傷つく…」
「大丈夫だぞ、コイツもフェルトのこと食べないから」
「ほ、ほんと?でもさっき『うまそう』ていった…」
「うっ…いや、もう大丈夫大丈夫、今は食べないから」
「い、今は食べなくてもいつか食べるの?」
「ちがっ、えーと、そのぉ」

しどろもどろなライルにフェルトはどんどん怯えていきます。
ライルは可愛い小さなうさぎに、ウルウルと見上げられ、良心と食べると言ったことの罪悪感にどきまぎしてしまっています。
猟師を生業としているのに、ある意味情けない、とニールは思いました。

「なあフェルト、どうしてここにいたんだ?最近狼も出て危険なんだぞ」
「お兄ちゃん、とはぐれて…」
「お兄ちゃん?どんなやつ?」

ライルが発言するとぴゅっとフェルトはニールの後ろに隠れます。
かなりの怯えられっぷりに根が繊細でガラスハートなライルの精神的ダメージは図り知れません。

「黒くて赤い目の…とっても強いの。前ね、私が襲われた時、熊さん倒したの」
「……もしかしなくとも、刹那?」
「知ってるの?!」
「いや、熊倒すようなうさぎなんて刹那以外いないだろ」
「お兄ちゃん、1人だけ良いニンゲンいるって…それはニール?」
「お、良いニンゲン判定してくれたのか、アイツ」

一度怪我して帰ってきた兄は、ニンゲンに手当てされたと言ってました。
やっぱりニールは良いひとなのです。
フェルトは喜びました。

「取り敢えず、家まで帰してやりたいけど時間が時間だ。夜の森が危険なのは分かるな?」
「うん」

森の夕方は短いのです。
もう辺りは薄暗く、鬱蒼としていました。
それに新しい狼の群れが現れています。とても危ない。

「俺たちの家に泊まれ。リスやフクロウが刹那に今のこと伝えてるだろうから、迎えに来るまで待つ。わかったか?」
「うん。」

この森の動物たちはみんな知り合いで、刹那はその中でも有名人です。
仲間たちの情報ネットワークは熊や狼、ニンゲンから身を守り生きる知恵でした。
ニールはそれを知っています。
刹那の人となり…ではなくうさぎなりを知っているので、ニンゲンに妹が連れてかれたと聞いたら飛んでくるでしょう。

「…なあフェルト、」
「っな、なに…?」
「頼むからそんなにびくつかんでくれ…傷つく」
「で、でもあなたは私を食べるんでしょう?」
「食べないから…」

道中、フェルトはニールの服の裾を掴みながら歩いていました。
そしてライルからできるだけ離れています。
警戒心剥き出しの目と震えて垂れている白い耳が、ちくちくとライルの心を刺していました。
出会いが仇となって、フェルトの警戒は中々とれません。
ニールにはこんなになついているのに。
切なくなるライルさんでありました。


次の日

「ほら、ニンジン。」
「……」
「大丈夫大丈夫」

昨晩からフェルトに心開いてもらおうと鋭意努力中のライルに、ニールはいい加減泣けてきました。
フェルトはニールに聞いてからでないと、ライルから物を受けとりません。
話しかければ萎縮する怯える威嚇されると凹むことばかりですが、ライルは諦めません。

「美味しい…」
「だろー?俺の野菜は美味いぞ」
「ライルが作ったの?」
「ああ。他のも食べるか?」
「うん」

餌付けです。
最終手段餌付けです。
ほんのり笑ったフェルトにライルも嬉しくなります。
ニールは薪割りしながら弟の努力に涙を流します。
もちろん、野菜は兄弟共同作業。2人で作りましたが、ニールは言いません。
ほわり、と良い雰囲気が流れたその時。

「ひでぶっ!」

バキッとライルの横っ面に黒い塊がぶつかり軽く吹っ飛びました。

「お兄ちゃん」
「探したぞ、フェルト」

黒い塊は黒うさぎの刹那でした。
大好きなお兄ちゃんの前に、フェルトも嬉しそうです。
熊をも倒すラビットキックを食らったライルはピクピクしています。

「母さんも心配している。帰るぞ」

しかし刹那は気にも止めません。
フェルトはほんの少し心配そうにライルを見ましたが、すぐに兄に直りました。。

「ニール、世話になった」
「ありがとう」
「いんや、またな。フェルト。刹那も」

ニールが2人の頭を撫でました。フェルトは微笑み刹那は照れたようにそっぽ向いてしまいます。
フェルトはまだ悶絶しているライルに小走りに寄っていきました。

「また野菜食べに来ていい?」

小首を傾げてフェルトは聞きました。

「ライルの野菜、とっても美味しかった」
「そ、うか…!いつでも、来ていいぞ」
「ありがとう」

ライルの野菜目当てでも、少しはなついてくれたのでしょう。
ふわりとフェルトはライルに微笑みました。

「またね」

倒れたライルそのままに、フェルトは兄に手を引かれて紫うさぎのお母さんが待つ森へと帰っていきました。
ニールは見えなくなるまで手を振り見送った後に、ライルを見ました。
ライルはまだ倒れていますが、とても幸せそうです。

「兄さん」
「なんだ?」
「俺、初めて小動物になつかれた…!」
「…そうか」

感涙です。
ニールはなついたには程遠く、道は長いと思いましたが、黙って弟の頭を撫でてやりました。

それからフェルトは兄と一緒によく双子のもとへ遊びに来るのでした。



終わり
オチナシ!
ライルが小動物になつかれないのは、『飯!』と最初に思うからです(笑)
敏感に感じ取られてなつかれません。
猟師としては正しい。
15000番リク下さったきのはた様に捧ぐ。マジ遅くなってすみません…ッ!リクに沿えてなくて、もうほんとに!




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