novel

□ある大学生の二人
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炎天下の中、大学の風の通る木陰で微睡んでいた刹那は不意に聴こえてきた悲鳴やざわめきに身を起こした。
学舎から笑い声と切実な悲鳴が入り交じって奇妙な喧騒が生まれてきている。
妙に建物が暗いことを不思議に思っていると、『レポートが!』と聞き取れた悲鳴の単語から停電だと察した。
雷にはしゃぐ子どものように、目の前の道を走って校舎に入っていく学生もいれば、おろおろしながら出てくる学生もいる。
刹那は自分のケータイの振動に気付き立ち上がった。

「……不運だったな」

落ち合う予定のフェルトが一人でエレベーターに乗っていたらしい。
非常灯だけの明かりというのがまた不気味さに輪をかけていて不安になるという。
停電が直るまで話していたいと彼女は言うが、生憎自分も彼女もお喋りな人間ではない。
訥々とした会話を続ける。

『いつまでかかるかなぁ…』
「どうやら敷地内全てで停電らしいな」

彼女がいるエレベーターの方へ足を向けながら刹那は周囲を見る。
廊下もホールも非常灯だけだ。昼間であるから暗いというほどではない。が、学内の雰囲気は随分と違う。
職員たちは対応に追われ走り回っている。
パソコン教室の前はなお重い雰囲気だ。皆、定期試験直前でレポート作成に四苦八苦していた最中の停電でやりきれないだろう。
中身が全部飛んだのだから。

「バックアップ前に飛ぶのは辛いな」
『先生たちに提出したデータも飛んだりしてね』
「提出し直しは面倒だ」

空気が蒸し暑くなってきた。空調もストップしているのだろう。
こんな暑い日に限って。
刹那は一階エレベーターの前で壁に背を預けた。

『時間、かかるね』
「暑くないか?」
『ちょっと…息苦しくなってきたかな。刹那、』
「なんだ?」
『ニール先生の研究室に行く前に、ジェラート食べてっていいかな』
「ああ、そう言えば今日はジェラート屋のワゴン車が来ていたな」
『うん。』
「構わない。学内より外の方が涼しいだろう」



停電が復旧したのはそれから十分後。






ニールはゼミの先生。

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