五万打収納

□やさしいひとは
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世界で一番やさしい男、と言ったら誰?
と我ながら意地悪く問う。
チンケで幼稚な質問だ。
聞いて自分じゃない男の名前が出てくるのは不愉快なくせに、問う。
腕に抱いた素肌を晒している少女は、目を瞬かせた後に少しはにかんで言った。

「ニール。」

やっぱりだ。迷うことなく彼女は言う。
思い出して幸せそうな顔をするフェルト。
俺の腕の中、で。

「次は」
「刹那かな。」
「その次」
「アレルヤもティエリアも同じくらいやさしいよ。沙慈くんも優しいひと。」
「次、」
「ラッセさんにイアンさん。リヒティもモレノさんも。みんな、優しかった」
「……」
「どうしたの?」

一向に出てこない己の名。
次々と出てくる男の名。知らないものも、ある。
面白くない。と不機嫌になったライルの表情にフェルトは微かに笑った。

「ライルはね、一番優しくないの」

間抜けな顔をしていたのだろう、くすくす笑う彼女にライルは年甲斐もなく膨れた。

「こんなに優しくしたのに」
「そういうことじゃなくって!」

不埒な動きをした手をフェルトははたいた。
ちぇ、と彼女を抱え直してライルは次の言葉を待つことにする。

「私の知ってる誰よりも優しくない」
「それ、酷くね?」
「…だって本当だもの。おかしいな、私の好みの人は優しい人のはずなのに」

好きになった人は優しい人ではなかった。

そう愛しげにライルの胸に頬を寄せるフェルトにたまらなくなって、抱き締める力を強める。
シーツに散らばる桃色の髪を指先で絡めて口付けた。
遠回しに好きだと言ってくる素直じゃない彼女の直接伝わってくる温もりに、先ほどの苛立ちなど霧散してしまった。

「俺が優しいって、教えてやるよ」
「…丁重にお断りします。明日早番だしもう寝なきゃ」
「そう言うなって」
「っ!やっ」

やっぱり優しくない、という言葉は塞がれ飲み込まれていった。




裏っぽいライフェルでしたー。
う、ら…?
空気的に裏ということで勘弁してくださいまし…っ!




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