魔法

□金魚草の廊下
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朝、ベッドから起き出して、仕度をすませて部屋から出た私を包むひんやりと涼しい空気。
いつも私はこの瞬間に、一日が始まることを実感する。

この一瞬はとても清々しくて気持ちがいい。今日は金曜日だから尚更。


なんたってスリザリンと合同授業があるんだもの!


今日まで長かった…。
久しぶりにブラック君に逢える(正しくは見れる、だけど)、ああ、楽しみ!



「アリア、早く行きましょ?」



友達のララが催促する声が聞こえて、にやけたほっぺたを慌てて引き締めた。













「…?どうしたのアリア。さっきからあなた変よ」



だってだってララさん、あそこに座ってるのはブラック君じゃないですかー!?
いつもは時間があわないらしく、朝食の席で見かけたのはいつぶりか…!
私がブラック君に恋をしてからは初めてだ、きっと。

この感動をララに伝えようにも、レギュラス・ブラックに恋をしていることをまず話していないんだからしょうがない。
話す予定は今のところないし。
まだ一人でこの片想いを楽しんでいたいんだ。
優雅にオートミールを口に運ぶ仕草や、少しだけ眠たそうな目を見つめる感動は、私一人だけのもの!


ブラック君を見つめていたら、あんまり食べられなかった。
まぁいい、食事より大切なことも世の中にはある。






それからの授業は長いようであっという間、とうとうスリザリンと合同の呪文学。
ララは忘れ物を取りに戻ってしまったからひとりで教室に向かう。


最近見つけた近道は、まだ知ってる人が少ないらしく、人通りが殆どない。
早く行って席取っとこう、そう思って角を曲がって吃驚した。

数メートル先を歩くのは、黒髪がきれいな男の人。


…ぶ、ブラック君…!!

絶対そうだ、私が彼を見間違えるはずがない。
後ろ姿だけだってすぐにわかるんだから、私ってばほんとにブラック君が好きなんだなぁ。


話しかける勇気なんてまだ持ち合わせていない私には、こうやって後ろを歩いてるだけですごく、幸せ。

とくんとくん、少し早い私の鼓動。
片想いってほんと楽しい。
好きな人のことを好きなだけ想えるのって、なんて素敵なんだろう。


静かな廊下に二人分の靴音が響く。




くぅ、





「「………。」」




………今、おなか、鳴った?



誰の?…わたし、の?

うあああ何それ!?

確かに朝食ちゃんととらなかったけど、まさかこのタイミングで、どうしてなんでっ。


ブラック君、立ち止まってるし。
なんでよ、そこはスルーしてさっさと教室行ってよ、余計に恥ずかしいじゃない!


なんで好きな人の前で、こんな……。
もう泣く。
穴掘ってそこに入りたい。
誰かその上から土かぶせてくれると嬉しいな。


俯いていると、コツコツと小さな一人分の足音。
視界に入ってくるのは長い足。
恐る恐る顔をあげれば、すぐ近くに恋い焦がれる人の顔が。



「…あげる」



はい、と手渡されたのは蛙チョコレート。

状況が全く飲み込めずに、ただぽかんとブラック君の整った顔を見つめていると、ふんと鼻で笑われた。
その仕草のなんて様になることか!



「また後でね、アリアさん」



その笑顔に私が惚れ直したのは、至極当然のことでした。




(このチョコレート、食べれないよ…っ)
(ていうか、な、名前!)


title by(狗眼)



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