テニプリnovel
□乾の謎の液体
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「ついに完成だ!」
眼鏡が逆行の光に反射し、怪しげに輝いてみえた。
口の端は吊り上がり、不敵な笑みを浮かべる。
乾は液体が入ったジョッキを自分の目の高さまで掲げて、微笑んだ。
「惚れ薬の完成だ」
「…乾先輩。今日は何か嬉しそうっスね」
「ああ、分かるか?今日はホントに良い日だ」
「良い日…何ス…か?」
乾の満面な笑み=ろくでもないことを仕出かそうとしていると読み取った海堂は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
今は授業後の部活中で、まだ早いためかレギュラーは全員揃っておらず、レギュラー以外もちらほらいる程度だった。
そんな時に乾が海堂に話し掛けたのだ。
「そうだ、海堂。チョコいるか?」
「いらないっス」
「え、何で…」
即答で答える海堂にショックを受けたのか、乾の声色は悲しみに帯びていた。
それが分かり、海堂は乾の様子を伺う。
「…何で、俺にチョコくれるんスか」
「フフフ。そんなに気になるか?」
「いや、気にならないスけど…」
「……そ、そうか」
そんなやり取りが続いた挙げ句、結局海堂はチョコを貰う羽目になってしまった。
だが、乾に貰った物を馬鹿正直に食べる気など毛頭ない。
何が入っているか分からないからだ。
そう考えた海堂は、そのチョコは口を付けずに一旦鞄の中へと押し込む。
乾は、海堂がチョコを受け取ってくれて嬉しそうに、いや、怪しげな笑い声が部室にこだました。
部活が終わり、着替えた者から解散となる。
河村は家の手伝いがあるからと、着替えをせずに帰ってしまった。
「じゃあ、おっ先〜♪」
「あ、待って!英二。俺も帰るよ」
菊丸が帰ろうとして、大石も急いで支度をし、菊丸に続く。
不二も帰り、残りは乾、海堂、桃城、越前、手塚の計6人にとなった。
「海堂、チョコは食べないのか?」
「……後で食べます」
「……今食べないのか?」
小声で乾は海堂に話しかけ、嫌でもあのチョコのことを思い出す羽目になった。
桃城と越前は二人で話していて、乾と海堂の会話のやり取りは聞こえていない。
手塚は一人で黙々と日記をつけていた。
「別に何も入っていない。安心していい」
「本当スか?」
「………ああ」
海堂に疑いの目を向けられ、乾は一瞬目を泳がす。それが海堂にも分かり、乾を睨み付けた。
「分かった。じゃあ、こうしよう」
「どうするんスか」
「あと一つ、俺の手作りチョコがあるんだ」
乾は海堂に上げたチョコとは別に、もう一つを鞄から取り出す。
「あの二人のどちらかに味見をしてもらおう。それなら文句はないな」
「…まぁ、それなら」
諦めたのか海堂は頷く。
乾はそれを見て、不敵な笑みを見せた。
「じゃあな、越前!」
「お疲れっス」
乾が声を掛ける前に桃城は部室から出て行った。
「越前、チョコ食べないか?」
「チョコ…?」
桃城がいなくなったので対象は自然と越前になる。
越前は乾を少し見た後、表情を緩めた。
「ちょうど甘い物食べたいと思ってたんスよね」
「そうか。それは良かった」
チョコを受け取り、越前はそれを口に含んだ。
何事も起こらず、越前はチョコをたいらげた。
越前は奇声や倒れもしなかったし、嫌そうな表情は一切しない。
海堂はそれを見て安心すると、乾に貰ったチョコを口に入れた。
乾はその姿を見届けると、海堂を部室の外へと連れ出す。
あと部室に残ったのは、越前と手塚だけとなった。
「………」
「越前。もう着替えが済んだなら、出てくれ」
「部長…」
「越前?」
越前は何時もと様子が可笑しかった。
目はとろんと虚ろで、ボーっと手塚を見据えている。
「具合が悪いのか?」
「部長……俺」
「………」
越前の言葉をじっと待ちながら、手塚は越前の背中をさすっていた。
「部長のことが好き」
「…………………………………」
「部長…キスして」
「……………………………」
耳を疑う以前に、思考が停止し、言葉を失う手塚に越前はお構いなしだった。
「………部長は…俺のこと嫌い?」
「いや、嫌いじゃないが」
「じゃあ、キスしても怒らないよね」
手塚が固まっていることを良いことに、越前は顔を近付けていく。
「待て。一体どうした?」
「どうもしないっス。ただ部長のことが好きなだけ」