beatmania UDX

□【不意打ち】
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 なぜだろう。
 彩葉を好きだ、というのは、間違いなく本当なのに。
 気持ちを伝えちゃ、イケナイ気が、するんだ。


【不意打ち】


「いろいろいろはー☆」
 いつもの明るい口調で、今日はめずらしく自分のほうに突進してくる。
 避けたらどうなるだろう、という悪戯心からヒョイと横に避けると、彩葉はそのまま

突進し、セリカやエリカにぶち当たった。
「うきゃぁぁあっ」
「わわわっ」
「ちょっと彩葉、大丈夫?」
「は、はい〜、大丈夫ですぅ〜。」
 ……結構な大惨事だった。
 勢いを殺しきれなかったようで、二人を巻き込んで倒れこんでしまったようだ。
 ……少し、悪い気がする。
「慧靂、避けてやるなよ。」
「……いや普通、あんな勢いで来られたら誰でも避けると思うんだけど。」
 鉄火につっこまれ、そう返す。
 悪戯心も確かにあったが、あんな全力疾走は無しにして欲しい。
 ……全力疾走でなかったら、万々歳だ。
「にしても、なんだってあんな全力疾走……」
「しんねぇよ〜。……あ、でもさ。」
「うん?」
 鉄火はふむ、と顎に手を当てて悩みながら、一言。


「彩葉が男に突進したの、初めてじゃねぇ?」

「え。」

「慧靂が初じゃん。」


 なんて、言うものだから。
 不覚にも、顔が赤くなったのが自分でも分かった。
「うわ、慧靂顔真っ赤!」
「うるせぇっ!」
 ぼかりと鉄火を照れ隠しに殴り、鼻を押さえて悶絶しているのを横目に見る。
 ちらり、と彩葉を見れば、ばちっと視線がかち合った。
 顔が熱い……。
「ホンマ、顔赤い……ダイジョブ?」
「!!」
 いつの間にやら目の前に居て、いつの間にやら額に手を当てていて。
 いっきに頭に血が上った。
「あ、おいこら慧靂!」
「慧靂? どこいくん〜?」
 鉄火や彩葉の声が聞こえたけれど。
 わき目も振らずに、ダッシュで逃げた。




「……どうしよ……」
 鉄火が言わんとしていたことは分かる。
 ……微妙に、脈アリ。
 それは、わかるけれどっ!!
「言えねぇって……」
 ざぁざぁと蛇口から流れる水を見ながら、1人愚痴る。
 どうしてそう思うのかわからないけど。
 なぜだか、言えないような。
 けれど、言いたいような。
 どうしようもないな、と思いながら、蛇口をひねって水を止める。

 だって、見てきたから。
 兄貴とエリカの事。
 親父と母さんの事。
 どっちを取れば良いのだろう?
 どっちを見習えば良いのだろう?
 ……よくわからない。

 溜息をつき、トイレから出る。
 ぱしんと一発平手で喝を入れて、元の顔に戻って。
 さあ、普通に行こう、普通に。






 告白するしないの前に。
 二十歳の男が高校生に手を出しちゃ駄目だろう!

 そんなことが、慧靂、二十歳の苦悩だったりする。



END
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