beatmania UDX

□【赤い夢】
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 珍しく、二人で酒を飲みに行って。
 普段通りに、士朗が刀を持っていることを注意して。
 初めて、士朗が酒を飲むところを見た。


【赤い夢】


「……お前さぁ。」
「ん?」
「いつも、そんなハイペースで飲んでんのかよ?」
 士朗が空けた量を数え、溜息をつく。
 ほんの十分で、とんでもない数だ。
「……今日だけだよ。」
 くすくすと笑って、士朗はコップの中のカクテルを一気にあおる。
 その自嘲とも言える笑みに、少し違和感を感じながらニクスもまた、コップに口を付けた。
 少しの間、会話の無い時間が続く。
 そうして、十分ほどたった頃だろうか。
 コップの中身をウィスキーに変え、士朗が唐突に、なあ、と話しかけてきた。
「なんだよ?」
「お前、今のこの生活、どう思う?」
「は?」
 何をイキナリ、と笑い飛ばそうとしたけれど、その瞳が真剣であることに気付き、ふむ、と真面目に考えてみる。
 けれど、正直意味が分からない。
「どう、ってのもなぁ……まあ、少なくとも軍に居た頃よりは楽しいんじゃねぇ?」
「ふうん……」
 それは良かった、と、士朗は笑う。
 その笑みの中に闇を見つけ、どうしたのだろう、と、マジマジとその顔を見た。
「……俺にとって今の生活は……俺の ― なんだよな……」
 ぽつり。
 呟かれた言葉が上手く聞き取れず、今なんと言った、とニクスは士朗に聞き返した。
 すると、からん、とコップの中の氷を揺らしながら士朗はもう一度、言う。



「これは、俺の夢なんだよ……


 ……あまり長くは見られない……



 真っ赤な真っ赤な、赤い夢さ。」




「……よくわからん。」
 その言葉の意味がわからず、素直にそう返すとおかしそうに彼は笑った。
 けれど、それに。
 昔の同僚の影を、ニクスは見ていた。
 諦めた笑顔。
 命を奪うということを諦めた笑顔。
 アメリカ兵士であっても、銃を持つことがあまり好きではない者の方が、多かった。
 命を奪うことが嫌だった。
 けれど。
 どうして、士朗がその笑みをする……?
「……俺さ。」
「あん?」
「俺はさ、そのうち、夢から覚めなくちゃいけないんだよ。」
 今の話の流れからいくと、それはこの生活をやめる、ということだろう。
 全てを断ち切る、ということ、なのだろうか……?
 たとえば。
 エリカと、別れるとか。
「そろそろ行くよ。」
 それを問いただそうとしたけれど、その前に士朗が席を立って。
 言うタイミングを、逃して。
「早いな。」
 かろうじてそれだけを言うことが出来た。
 その代わりに皮肉を込め、まだ来てからさほど時間は経っていないだろうに、というと、これから仕事なのだ、と返された。
 ならば酒など飲んではいけないだろうと思いはしたが、あえて口には出さないでいてやる。
 かわりに言ったのは、
「ふーん、じゃあな。」
 という、一言で。
「ああ。」
 そう言って、士朗はその場を去って行った。
 なんだろう。
 どこか、今日の士朗はおかしかった。
 だが……まあいい。
 一生のうちに何度かは、おかしな日もある。
 ニクスは、そう片付けていた。





 翌日。
 政界の大御所であった大臣の1人が斬殺された、というニュースが流れたが、誰も気に留めることは無かったという。

END
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