beatmania UDX

□【世界崩壊の日】
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 信じられるか?

 今日……



 世界が、滅ぶんだってさ。




【世界崩壊の日】



 今日、学校は休み。
 当たり前だろ?


 今日、世界が滅ぶんだから。


 ああ、なんて冗談みたいな理由。
 でも、本当なんだよなぁ、これが。


 「それ」に大人たちが気付いたのは、ほんの二ヶ月前。
 分かったときにはもう、食い止めることが出来ない状態だったんだって。
 都合のいいことに……っていうか、皮肉なことに、12月24日の事だった。




 クリスマスイブに発覚した、世界崩壊。

 なんて笑えるんだろう。

 その日、永遠の愛を誓ったカップルがいただろうに。




 それが発表された直後は、だれも信じなかったさ。
 誰だって信じられるもんか。
 その崩壊の仕方が、よりにもよって。



 月が落ちてくる、だなんて。



 地球の伴侶と呼ばれた月。
 地球生誕の日から、何億年も共にあった月。
 離れていっているとされていたそれが、逆に落ちてくるんだなんて。





 そんな日に、俺は何をしているのかと言うと。
 自分の一番好きな、高台にある公園で、一人町を見下ろしていた。
 平日の昼間なのに、人の姿が絶えない住宅街を。
 吹き抜ける風が、とても気持ち良い。
 ほんの少し、冷たい風。
「……信じられねぇ、よなぁ……」
 ぽつり、呟いて。
 空を見上げた。
 正確には、空にある……

「達磨」
「! 津軽。」

 背後からかけられた声に、驚いて振り返れば。
 そこには、津軽が居た。

「どうしたんだ、こんなとこで。
 最後の日は、家族で過ごすのが普通だろ?」
「達磨を追ってきたの。」
 面と向かって言われ、不覚にも顔が赤くなるのが分かった。
 自分を追ってきた、という一言でこれほどに舞い上がれるものなのか。


「……嘘みたいだよねぇ……今日、こんなに気持ちがいい風が吹いているのに

 月が落ちてくるなんてさ。」



 津軽は俺の隣に並んで、空を見上げる。
 少しの間の、沈黙。

「ねえ、達磨。」
「あん?」
 津軽の方を向くが、津軽はどこか遠くを見たままで。


「私、貴方に会えてよかった。」


 静かに、静かに。
 風に溶けてしまいそうなほどに小さな、声で。
 けれど、確かに聞こえた。

「ゲーセンに行ってて、良かった。
 そうでもなければ、私は貴方と出会えなかった。
 弐寺やってて、良かった。
 じゃないと、貴方と話すことなんて、無かった。」
「……そうだな。」

 同じ中学。
 でも、まったく接点なんて、無かった。
 きっと、それは奇跡だったんだ。

「津軽。」
「なに……っ」

 だから、奇跡に感謝したいと思う。
 今、この腕の中に津軽を抱きしめられる。
 今、この腕の中で津軽の鼓動を感じられる。
 その奇跡に。

 カミサマ。
 俺は、貴方に感謝します。
 今日、この日に世界は滅ぶけど。
 今日、この日に俺達はしぬけれど。
 津軽にあわせてくれたことを、感謝します。

 信じていないけれど、感謝したい。

「……達磨……?」
「………好きだよ、津軽………」

 今日だから、素直に言える。
 明日が無いから、素直に言える。

 本当は、昨日言うべきだったのかもしれない、けれど。
 でも、今日、言うことが出来て。
 良かった。





「大好きだ……」

「……はんかくせ……」





 俺達はまだまだ、幼くて。
 でも、未来はもう、なくて。
 抱きしめる以外に、手を繋ぐ以外に。
 この思いを、伝える方法を、知らない。
 知ることが、できない。






 幼い二人の、最後の逢瀬を。
 明日の無い、悲しく、幼い、純粋な恋人達を。
 すぐ間近に迫った満月だけが、見つめていた。







  世界崩壊まで、残り6時間。


END
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