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□第一章 〜incontro〜
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(―――……またか。)

 彼女はベッドから身を起こす。
 ここのところずっと見続けている夢。
 それは妙に現実を帯びていて、しかし何度も繰り返される夢。
 するりとベッドから抜け出し、薄い安物のカーテンを開ける。
 そこに広がる未だ見慣れることの出来ない町並みと、いつでも変わらぬ青空とが広がっていた。
 眼下に広がる街道は、やはり何人もの人間達が剣や槍、果ては杖を持ちながら歩いている。
 いつもの光景。

「…………」

 彼女は無言で空を見つめ続ける。
 この日の昇り具合からして今は大体九時くらいだろうか。
 完全に寝坊した。

(ま、いっか。)

 どうせこの町に来たのも旅のついでだったのだ。
 以前から今日は自由行動にしよう、と皆で決めていた。
 ふっと笑い、寝巻きから簡単に着替える。
 動きやすさを重視した麻のシャツとズボン。
 その上から軽い革の鎧を身にまとう。

「髪……どうしようかな。」

 しばし考え、結局一番簡単で邪魔にならない方法にしよう、と決める。
 ざっと髪を掻き揚げ、紐で一括りに結ぶ。
 紅い髪が光に透けるほどに細いのは、別に大事にしているわけではない。
 ただ単にもともとなのだ。
 下へ降り、宿の共同食堂へと向かう。
 食堂には半端な時間にもかかわらず多くの人々が居たが、仲間はとうに食事を終えたのか影も形もなかった。
 食事を取りながらその喧騒に耳を傾ければ面白い話題が耳に入ってくる。
 どこかの国の王子が失踪した。
 北の遺跡を開けた奴が居る。
 宝石の商談に関する情報。
 そう言ったものからどこぞの国の姫と庶民の青年の恋物語や、隠し財宝などの眉唾物の話題も入ってくる。
 まぁ、そんな噂話など嘘であることが多いのだが。

(……確か近くに海、あったよね……)

 食事も終わり、思い至ったその考えに腰を浮かした。
 潮風で武器が痛む心配もあるが、彼女の持つ武器は少々特殊だ。
 そう簡単には痛まない。
 会計をしている女将に出てくる、と一声かけて宿を出る。
 どうせ今日もこの宿に泊まるのだし、と。


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