†...Pigeon Blood...†

□はじまり
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 それは、無。




 自分さえ認識できない空間に囚われ、一体どれほどの時間が経ったのだろう。

 一瞬か、それとも一日なのか……時間さえ存在しないこの空間で、それを知ろうとすることはまったくの無意味だとは、彼自身分かっていた。

 やわらかく、温かく……しかし、何も存在できないはずの、空間。







「……―――……」







 呟いた言葉は闇に融け、それが何かさえわからなくなりそうになる。

 けれど、彼は必死でそれを意識につなぎとめていた。
 いっそ抗わない方が楽だと分かっていても、必死で。

 それだけが、彼が自己を認識できる、唯一つの事象だったから。


 そこには何も無い。





 音も。
 時間も。










 光さえも。








 ともすれば発狂してしまうであろうその空間で、彼は前へと進み続ける。



 この先に、希望があると信じて。





 それだけ長くこの空間にいたのか。
 もはや、何も感じず。


 ただひどく寒いだけで、恐怖も、疲れも……何も。


 動こうという意志さえなくなり、そこに座り込む。









 どうして自分は、ここに居るのだろう?









 ふと浮かんだ疑問に思いをはせ、ハッとして顔を上げた。


 なぜ自分はここに居る?
 いつから?
 どうやって……?












 なにも思い出せなかった。





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