他
□さよならは言わない
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「仰せの通り、アリエッタを導師守護役から解任致しました」
気が付くと、いつの間にか自分が居るベッドのすぐ傍に、一人の男が立っていた。
「あぁ、有り難う。ヴァン」
「・・・よろしかったのですか?別れを告げなくとも」
ヴァンが表情を変えずに尋ねると、イオンはふっと笑みをこぼした。
「さようなら。って?それは出来ないよ。だって、いつもは『おやすみ』とか『またね』なのに、いきなり『さようなら』なんて言われたら、気付かれるかも知れないからね」
「しかし、アリエッタの事です。難しい事は考えないのでは?」
「良いんだよ。どうせ、今日僕が死んだ後にも、レプリカは生き続ける」
「そう、ですな・・・」
そう。僕は、さようならなんて言わない。
『イオン』はまだ死ぬことは無い。
それに、もし、俗に言う『あの世』が存在するのだとすれば、これは決して、永遠の別れなどではないのだから。
「・・・では、私はこれにて失礼させて頂きます」
「うん、有り難う。それと、これからの事、頼んだよ」
「御意」
ヴァンはそう言い残すと、静かに部屋を出ていった。
ほんの少しずつ、胸が苦しくなっていくのが分かる。
いよいよ、命もあと僅か。
イオンは起こしていた上半身をゆっくりと倒し、まどの外にある夜空を眺めた。
どこまでも続く、雲一つ無い美しい空。
彼女は今、この空の下のどこかで、泣いているのだろうか?
きっと、導師守護役を解かれたのは、自分が悪いからだと思っているに違いない。
「君は、レプリカに気付くかな?」
もしかしたら、それとなく気付くかも知れない。
もしかしたら、誰かから真実を告げられるかも知れない。
その時、君は
僕を恨む?
やっぱり、教えて貰えなかったのは自分が悪いからと思い込む?
「う・・・」
突然激しく痛み出した胸に、その考えは霧散した。
でも。
この腐った世界はヴァンが何とかしてくれる。
だから、頭に浮かぶのは―――
「ねぇ」
アリエッタ。
「何で、僕が、さよならを言わないか、知って、る?」
僕、決めたんだよ。
君がレプリカに気付いても、気付かなくても。
多分、君の人生は終始、幸せとは言えない物だろう。
折角拾い育てたのに、幸せでいられなかったら、後味が悪いからね。
だから。
だから、君にもいつか必ず来る終わりの時。
君の命が尽きた時に、僕が君を迎えに行こう。
たとえ、あの世が在っても無くっても。
果ての無い暗闇をかき分け、誰よりも先に君の元へ。
そうすれば、少しはマシになるでしょう?
だから。
「さよなら、は。言わ、ない・・・よ」
ねぇ。
「アリ、エッタ・・・」
僕が、迎えに行ったら。
そうしたら、
また、
「僕、の―――」
――導師守護役に、なってくれる?
ねぇ?
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