本編

□前途多難の恐れあり
1ページ/15ページ



紅い世界が在った。

紅い世界は、黒い雲と、紅い海で埋め尽くされていた。


海の中から、一本の白い腕が伸びていた。

腕は、彼方の方を指差していた。



腕が指差す先には、何も無かった。



彼方は、『彼方』ではなかった。

『彼方』は、存在していなかった。



「汝は、存在する者か」

腕が問うた。

「私は、存在していない」

彼方は答えた。


「汝は、存在しない理由を知る者か」

腕が問うた。

「知らない」

彼方は答えた。


「汝は、己の罪を知る者か」

腕が問うた。

「知らない」

彼方は答えた。


「汝は、己が何かを知る者か」

腕が、問うた。


「私は」


彼方は、答えられなかった。



すぐに答えられる気がした。

いつか答えられる気がした。

永遠に、答えられない気がした。





「汝は」

世界が、急速に遠くなった。








「汝は、答えを望む者か」










彼方は、答えられなかった。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ