さなにおさな通常版:1  

□仲秋の名月
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制服のままふらふらと土手を歩き、すすきを詰んで鼻唄混じりに一人歩き。
見上げた宵の空にぽつんと浮かぶ真ん丸なお月様に皮肉げな笑みを見せて仁王は歩みを進める。
些細な事で捨て台詞を吐いて部室を飛び出した。
自宅にいても気持ちは収まらず、日中よりひんやりとした風に頬をなでられて身体が震えた。

「風邪でもひいたらどうする」
苦虫を潰したような顔が目の前にあった。
「おはん…いつの間に」
それには答えず、真田は帽子を被り直した。
「携帯は?」
「…あ」
今気付いたフリをして見せたが、喧嘩した当日真田から連絡があると思えず、携帯は置いてきたのだ。ポケットには僅かな小銭しか入っていなかった。

「掠われても文句は言えんぞ」
「…は?おはん、何言う…?」
頑として動こうとしない仁王を肩に抱え上げ、真田は自宅方面に向かった。
手足をばたつかせる仁王の抵抗などものともせず真田の足が停まる事はない。
「このまま…帰らんと言うなら、どこで夜を明かしてもかまわんと言う事だろう」
「…なっ…」
らしくない解釈に言葉もない。
「どうだ?」
「…下ろしてくれ。自分で歩ける」
「駄目だ」
「なん…ッ!?」
「…先程はうっかり逃がしてしまったからな。同じ日に二度も同じミスはおかさん」
「え・・・?」
「離しはせん」
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