さなにおさな通常版:1  

□そらのむこう
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「…すまん、勝手に溢れて止まらん…」
仁王の双眸から伝い落ちる雫を真田は拭いもせず、ただ見守っていた。

いつもと同じように授業や部活をこなし、いつも通りに終わるハズだった。たまたま昇降口で1番会いたくない人物に出会い、誘われて断り切れず別れ道まで歩いていた。
隣が急に立ち止まったので何かと思えば遠い先の空に感心した様子で見入っていた。
不意に焦りを感じて袖を引いた。
「…なぁ、お前さん…俺の事、好きなんやろ?」
黒い帽子が闇に紛れそうで、見失うのが怖くて仁王は布を握りしめた。
「ああ。だが、お前も俺と同じ気持ちなのか俺には判断できん。教えてくれ仁王」
口を開いた時、熱いモノが頬を伝い落ちた。
訳がわからないと訴えて見上げられ、真田は幼児をあやすように頭を軽くぽんぽんと撫で、そのまま腕を回して頭から抱きしめた。
真田のらしくない行為に戸惑って、仁王はうまくかわす事ができなかった。耳の辺りにかかる息がくすぐったい。
少しずつ頭をずらす。真田はまだ気付かない。夜陰に紛れて自分がしでかそうとしている事に。
怒るだろうか。ひゃくねんのこいが冷めるだろうか。
結果はわかっていた。きっと赦される。

仁王は真田の息を直接吸い込んだ。

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