さなにおさな通常版:1  

□おみとおし
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ミーティングの後、仁王は仏頂面の副部長から話があると言われ、部室で待たされていた。
部長始め、他のメンバーと次の試合の打ち合わせをしていると、ふわふわくるくる頭の二人組が恨めしそうな目でこちらを睨んでくる。それにほくそ笑みを返すと副部長の方から鋭く咳ばらいが聞こえた。
見られていたのかと目線だけ流すと、既に蓮二と別の話に移っている。
後ろ髪を弄り話半分に聴きながら、副部長の言い出しそうな事を考える。
準決勝で使ったトリッキーな技については許可が出ているし、赤也の件も予定通りうまくいった。
褒められこそすれ、あの男が褒めるわけもないかとため息をつく。
つまらなそうだねと幸村に指摘され、その隣から睨まれた。
居残りが決まっているから着替えるにしても急ぐ必要はなく、仁王はのんびりと制服に袖を通した。
「お疲れ」
「…幸村」
まだいたのかと内心驚く。
「真田に、あんまり無茶するなとは言ったけど…後はよろしく」
「…は?」
「俺はそんなに野暮じゃないよ」
爽やかな笑みを残し、幸村は仁王を置き去りにした。居心地の悪さに悪態つきそうになるのを、ロッカーの向こうにいる人物の機嫌を損ねないようにおさめる。
「で、なん?」
ネクタイを簡単に締めて仁王は副部長の前に立った。
「…赤也と丸井の事だ」
試合前に柳生の声を真似て詐欺師は嘘っぱちの情報をリークした。それがばれたのだろうか。真田なら問答無用で代わりに仕返ししてくれるだろうとアテにしたのだが。
「お前こそ、あいつらに時折出鱈目を吹き込んでいるだろう。あまり目くじらをたてるな」
全てを見通したような言い草に仁王のこめかみがひくつく。
「な…あいつらが言ったんか!?」
「?」
「別に…俺かて、そんくらいの事じゃ…」
冷静さを欠いてらしくなく仁王は息を荒くする。
「…では、何が気に入らなかった?」
「…ッ!?」
「差し入れがなかったからか?俺が奢ると言うのが嘘だったからか?」
「…ぅ」
「…俺が、あえてお前に頼まなかったからか?」
怒りが萎んでいく。言われるまで自分が何に憤っているのか自分でもよくわかっていなかったのだ。騙された、という大まかなくくりで柳生のフリをして真田に電話をかけ、幸村と組んで柳生に八つ当たりした。
「…幸村が…」
その名前に反応し、後ずさる、否定したいのに舌は言う事を聞かず涙が出そうになった。
「俺にも責任が…あると」
違う。首を左右に振るが、顔が上げられない。肯定したも同然だった。
真田が近づいてくる。両脇に手を付かれ逃げ場を失った。
「…俺もまだまだ忍耐が足りん。…狭いブースにお前が柳生と二人でいるのが気に入らなかった」
真田は柳と以前行った事がある。その時は気にしないようにした。それくらいがなんだと言うのか。副部長の業務として…部長命令だから…。そう思えば気は楽になった。
「だが、ジャッカルが早退した日、他に頼める者はいなかった。俺は他のやる事があったし、それ以前に…役不足だからな」
仁王は唇を噛んだ。今更そんな事を言い出してどうしたいのか。惨めな気持ちだった。出来ることなら壁のような身体を突き飛ばしてこの場から立ち去りたかった。
「…俺が狭量なせいだ」
息がかかる。
「…すまん」
胸を衝く言葉にとうとう雫が一つ零れた。
「…ずるいぜよ」
ようやく搾り出した声はやはり自分らしくなくてさらにしゃくり上げそうになるところを抱きしめられた。
腕を回してしがみつく。
不意に携帯が鳴った。頭の上で真田が誰かと話している。取り上げたくて仕方なかった。
「取り込み中だ。後でかけ直す」
怒鳴るように告げると一方的に通話を切って端末を部屋の隅に放り投げる。
「…柳生だ。俺がお前に無理を強いていないかと…。信用されていないものだな」
お前に関しては柳生も容赦がないと気にいらなさげに吐き捨てる姿がくすぐったくて、仁王は自分から真田を引き寄せた。

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