さなにおさな通常版:2

□桃の節句
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目の前に転がる図体をもてあましてため息をついた。
姉の雛人形を見せるからと誘ってみたら案外あっさりとついてきて。
折角だからと甘酒を供してみたら一口で赤くなり、干す間もなく床に転がった。
酒かすは苦手だと言われたような気もするが、それなら飲まなければいいのにと自分の分を飲み干して思う。
きっちり締められたネクタイを緩めた方が寝やすいのかと思ったり。
風邪をひくから起こしたほうがいいのかと思ったり。
何かかけるものを探してこようと思いながらも足が動かなかったり。
自分も酔ったのか考えがまとまらない。
普段はこれくらいの酒精では酔ったりしないのに。
無防備な寝顔を見ながら飲み干されなかった甘酒に手を伸ばす。
自分も酔いに任せて素直に想いをぶちまけたい。
そう思って進めたのに。
先に潰れるなんざずる過ぎる。
ずるいずるいずるい。

思考が段々と短絡的になっていく。
このまま、お前さんが知らん間に何かしてもいいんかの?
そのまま知らん顔しといたら今まで通りでおれるんか?
欲しいけれど失いたくはない。
どうしたらいいのかもうわからない。
寝てしまおう。

空いたグラスを床に投げ出し、隣にごろりと横になる。
風邪ひくかもしれん。
部屋に連れて行くか?
そっと手を伸ばして肩を揺する。
おきてくれんと、俺ひとりじゃどうしようもない。
目をさまして。


酒かすは苦手だが、あれくらいで寝てしまうとは思わなかった。
ふと寒気を感じて震えた瞬間に目が覚めた。
よろよろと起き上がるとわずかな頭痛。
目の前には上下に揺れる銀髪。
寝てしまったのか。
退屈させてしまったのか。
雛人形なぞ自宅では見たこともなかったのでものめずらしさも手伝って邪魔してしまったが
下心があった事も否定はしない。
乱れた髪を手梳いてやるとくすぐったそうに身じろぎした。
どんな雛よりもいとしいと思った。

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