さなにおさなパラレル

□少し先のおはなし
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ソファのお気に入りのスペースでまどろんでいると玄関から物音がした。時間を空けずにリビングのドアが開く。
「来ていたのか」
玄関に靴があるからわかりそうなものだが、真田は毎回同じ事を言いながら口元を綻ばせる。
膝の上にあった雑誌を放り出して腕を伸ばす。おかえりのハグを交わして挨拶は終わり。仁王は雑誌に手を伸ばし、真田は着替える為に部屋に入る。
仁王は別に部屋を借りて住んでいるが、たまになら遊びに来てやると言ったら感激して羽交い締めてきた恋人の部屋にほぼ通い詰めだ。
真田の部屋では彼のルールに従っている。仁王の部屋では自分がルールだ。それだけを決めて後は勝手にやっている。
真田がエプロンなど身につけて料理する間もソファーにもたれている。声がかかるまで手を出さないと約束したおかげで真田の用意する食事も楽しみの一つになってきていた。

ふと、仁王は忘れ物をした事に気がついた。
朝までに取りに戻れば問題ないが、食事が始まると後が長い。多分朝まで動けない。少し迷った揚句、お定まりの場所から腰を浮かせた。





街灯が点る道を二人で並んで歩く。食事の後なら俺もつきあうからと言われてはその通りにするしかなく、時間は気にしなくてよいからとなだめられて温かい夕飯を摂った。
外は肌寒いくらいで、後から家に入った真田のマフラーでぐるぐる巻にされた。過保護にされていると思うが昔からこうなのだから今更言っても変えないだろう。真田家にお泊りした翌朝、仁王が目を覚ますとたいてい汗をかくほど浴衣や肌掛けに被われていたものだ。
隣の男は寝間着くらいで満足そうに眠っていた。身体を起こした時に肩など顕になると慌てふためいたのは心配したからなのか劣情を抑えるためだったのか。
ともあれ、学び舎を卒業し社会に出てからもオツキアイは続いていた。

一緒に暮らそうと何度も誘われたが、仁王は首を縦に振らなかった。自分たちの性格を考えれば同じ屋根の下に長く居られる筈がない。家出できる場所が欲しいから自分の部屋はそのままにしておきたいと。
それが何故か真田を喜ばせてしまい、翌朝は声を出す事もできなくされたのだが。

真田がソファーの仁王の隣に座り、とりとめもない話をしながら触れてくる。煩わしそうなのはフリだけで、そんな形でしか甘えられない恋人を真田は享受していた。
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