さなにおさな通常版:1  

□枷
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見た目は変わらないのに明らかに違う重さ。
素直に渡してやる気になれず、相手の顔めがけて放り出した。
動じる様子もなく重たい鉛が入ったそれを掴み、慣れた仕種で巻くのを無言で見つめる。
視界いっぱいに黒い物が広がったと思ったら、眉間を軽く突かれた。
「…なん?」
「…いや」
どんな顔をしていたと言うのか。真田の顔が僅かに苦笑している。
今日は何があっても折れてやらん、と仁王はそっぽを向いた。
束ねた後ろ髪が揺れる。
「…俺の腕には物足りんのだ」
「…」
ぎしりと音がして真田の気配が間近になる。
後ろから腕を回され、首筋に熱い息がかかる。
そのまま、また二人でシーツの中に倒れこんだ。
まだ何も着ていない仁王を抱えたまま真田は何も喋らない。
仁王も同じく。腕にこすりつけるようにして顔をうずめ、口を閉ざしたままだ。
濃密で静かな空気が狭い室内を充たしていく。
黒いリストバンドに妬いても仕方ないが、それでもこの場にいない人物との約束を果たすため、己に枷を強い続ける想いの強さに胸が締め付けられる。
仁王は真田の下にできる限り身体を潜り込ませ、真田も知ってか知らずか拘束する腕の輪を縮めていった。

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