年下のカレシ:

□008
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イイニオイ…
眠っていてもわかる、甘酸っぱいような、なんとも言い難い香り。
瞼をこじ開けると、大きめのブレザーをまとった少年たちが立っていた。
「入部希望?」
受付に座っていた事を思い出し、手を差し出す。
一人の少年が慌てた様子でポケットを探った。
ストレートで黒い髪を切り揃え、やんちゃな顔立ちの中に育ちの良さがうかがえる眼差し。
香水などつけているわけでもなさそうだが…と首を傾げる。
「手に持っていたぞ、弦一郎」
おかっぱ髪の少年は目を閉じたままだった。
柔らかそうでウェーブがかった髪の、少女とも見紛う風体の新入生は目を細めている。
厄介な後輩ができそうだとため息をついた所で入部届が3枚提出された。
握りしめたのか、少し湿ってしわが寄っている。
「3人ね。で?どれが誰?」
隣に座っているパートナーが差し出した手を見ないフリで意地悪く聞いてみる。
さなだげんいちろう。
兄がいるのに一郎と名付けられた少年。

「…先輩は」
立ち去り際、控え目な声に顔を上げる。
「何かつけていらっしゃるのですか?」
学校内で…と批判的な眼差し。
「別に?」
「…失礼しました」
素直に頭を下げると先に行っていた友人たちの元へ走り去った。
「なんか匂う?」
わざとらしくシャツの衿をばたばたさせてみた。
パートナーは首を傾げてから否定し、名簿の中に3人の名前を書き加えた。
真田弦一郎。
どんなテニスをするのか。
楽しみが増えた詐欺師は嬉しそうに唇の端を歪めた。

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