小説
□光と闇のセレナーデ
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「うーん、あと少しだけぇ」
携帯の目覚ましは決まった音声を繰り返すだけなのでそれには答えてくれない。
誰にも注意されないことをいいことに少女はまたしても軽く微笑みながら寝返りを打つ。
イルカさんも忙しそうだ。
今度はいったい何に乗るつもりだろうか。
このままほおっておくと間違いなく遅刻確定なのだが、少女は一度も遅刻をしたことがない。
それは……。
がちゃ。
「やっぱり、まだ寝てる」
決まった時間になるとなぜか必ず起こしに来る妹、及川美夕の存在である。
「お姉ちゃん、起きて。遅刻しちゃうよ」
小さな手で芋虫と化している姉をゆさゆさと揺らす。
「うーん、あと少し。お願い、ね」
誰に言っているのだろうか。ドリームランドの住人なのか美夕に言っているのか。
目を閉じているため判別不可能である。
「そんな可愛い声で言っても美夕には通じません」
「むぅ」
会話が成立しているところをみると、どうやら美夕の声は聞こえているみたいである。
「最後の手段でーす。脱皮の時間でーす」
その瞬間、美夕の顔に笑みが走る。
ぎゅっと布団を力強く掴むと、容赦なくガバッと剥ぎ取った。