カルタ小説
□「こ」
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その青年はとても明るかった。
仕事も出来るし、人付き合いもいい。愛想よく振る舞っているため、周りからは誰もが彼を好青年と噂している。
別に彼は計算高いわけではない。一人でいるより誰かといるほうが好きなのである。
だから彼にはたくさんの友人がいるし、その友人たちをとても大切にしている。
休みの日になると決まって自分から友人たちを誘い、街に繰り出す。
「おまえ、いっつも笑っているよな」
みんなといるときの青年の顔はとても楽しそうだった。
「怒ってるより笑ってるほうがいいじゃん」
「そりゃそうだけどさ、悩みなんて持ったことないんだろ」
「悩みなんかあったらつまらなくなるだろ。じゃ、次はあそこな」
「へいへい。どこにでもついていきますよー」
楽しそうに歩く青年の後を数人が話ながら追いかける。
彼の生活は孤独とは程遠いものと誰もが思うだろう。
しかし、彼の本当の姿を知るものはいない。
誰も待っていない暗く冷たい部屋に帰ってきたとき、一瞬捨てられた仔犬のような目になることを。
どんなに楽しくても、どんなに笑っていても、どんなに周りからいい目で見られたとしても、彼の本当に求めているものはどこにもなかった。
彼は一日に一度必ず孤独と向き合わなければならなかった。