歩中編
□SWEET4
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カンカンと照りつける太陽と低く大きな雲の固まりには残暑を感じる。
それでも、まだ朝方なので、日差しは強くなく、ジリジリとした暑さはない。
時折吹く涼しげな風だけは秋らしく二人の体温を下げていく。
病院の屋上という場所は暑ささえ何とかなれば、結構いいもので。
人はあまり来ない上に、いい気分転換にはなるものだ。
病室と違うべき点といえば、天井がないこと。
そして代わりに色彩の天空があることだ。
あの白という色は清潔感はあっても、色が全く無い、「無色」と同じなのだ。
此処に歩が入院してからというもの、わたしはそれをずっと思いながら過ごしていた。
純白というものは、一言で言えば「綺麗」
けどそれは全く正反対のモノを見て思えることのようだ。
見飽きてしまうほど、その色を見てしまえば、もうつまらない色としか映らない。現にもう見ても綺麗と思えず、心中には鬱陶しさしか残らない。
そんな色に囲まれた場所を逃げ出して、手っ取り早く色の存在する世界に飛び込むには屋上がピッタリで、
2人はしばらくその世界に浸っていた。
木乃華は連なったフェンスを背にして少し寄りかかり、
歩は車椅子でその傍らに寄りそった。
「外は気持ちいいよねぇ・・・」
風になびく髪を押さえながら、歩に目を向けて話す。
「ああ。」
歩はそう頷いて、視線を上に傾けて見上げた。
「ソラ綺麗だね」
気付けば青い空に鳥が高く飛び上がり、翼を羽ばたかせ螺回していた。
「歩は、学校の屋上でよく寝てたね。」
屋上で思い浮かぶのは、もう卒業をしてしまった月臣学園。
放課後や昼休みに屋上で昼寝している歩の姿は懐かしい。
「そうだな。初めて会ったのもその時だった。」
今でも簡単に頭に浮かぶ、初めて会った日。
「ミカンページを顔に被って寝てるなんて思わなかったけど・・・」
ふいに笑いが込み上げる。
隣を見れば、歩も同じように笑っていた。
「それは俺も同じだ。
まさか自分の特等席だと文句言われるとは夢にも思わなかった。」
「だって…。
もういいだもん、今は歩の隣だから。」
歩は微笑んだ。
懐かしい記憶。
懐かしい笑顔。
懐かしい思い出。
そう、それはいつまでも綺麗で輝いてるように見えた。
思い出せばいつも懐かしくて、少し切なくて・・・それでいていつまででもそうしていたくなってしまう。
でも、わたしが今生きるのは過去ではないから。
今いるのは現在で、これから歩いていくのは未来だから。
「歩は、夢ってある?」
「・・・片手のピアニストだな」
「そっか」
そう、あの頃はただ夢をみるだけで・・・何もしようとしてなかった。
何もしないまま、ただ願うだけでそんなのかなうはずないのに。
結局、自分に甘えて夢を諦めるハメになってしまった・・・
それでも、今は新たな夢が此処にある。
「わたしも夢があるんだ。」
彼はその言葉になにも言わず、問わずに、ただ優しく微笑んだ。
そうだね、貴方にすぐに話すから。
わたしの心が完全に進む道を決めるまで、少しだけ待ってて。
そして、その時になったら必ず話すよ。
ソラはまだ低く、ごちゃごちゃと
白色が溢れていて騒々しくて、秋には程遠かった。