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□ばかっぷるですが
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じーっと彼の手元を見つめた、続いてこの視線を口元に移す。ひとつ、またひとつ。



「・・・いいの、そんなに」
「何が?」
「何が、って・・・」



もう一度だけ彼の手元を見る。私が話しかけている最中も止まることは無かった。
何が、というと彼がお菓子を漁る手だ。現に、こちらを向いて首を傾げた彼の口には
チョコクッキーの粕がぽろぽろと付いている。・・・彼はお菓子に夢中、なのだ。
彼女が隣に居るのに。まあお菓子にやきもちを妬く私も私なのだが、
今の彼の頭の中を不等号で表すと、その記号の尖りは「私」の文字に向いている。
しかもお菓子を漁る彼といえば本当に嬉しそうで不思議と私は切なくなる。


何故なら私は、お菓子ほどに彼に嬉しそうな表情をさせたことがないからだ。





「お前も食べたいの?」
「そうじゃないけど・・・」
「じゃあ何」



お菓子ばっかりじゃなくて私も見てください、そんなことはとても言えなくて言葉は濁ったものだけ。
あーあ、彼の手に握られてるそのお菓子になりたい。
それは大袈裟過ぎたけどそれに近い感じのことをいつも考えている。
最近、お菓子みたいに甘い彼女、なんて聴いてるこっちが恥ずかしくなるような歌詞の唄があったけど
お菓子好きの彼は、甘い甘い甘い本物の「お菓子」に夢中だ。「私」はとても勝てやしない。



「あーあブン太のばか」
「何だよ」
「何でもないよブン太のばか」
「意味わかんねえし」



喋りだしたと思ったら俺の事ばかよばわりかよと彼は口を尖らせた。
まじお前可愛くない、そう言って次のお菓子の袋を開けた。再び甘ったるい匂いが広がる。




「ブン太なんてお菓子と付き合っちゃえばいいのに」
「何言ってんだよ、俺が付き合ってんのお前しかいないじゃん」
「可愛くないって言ったくせに」
「何、お菓子に妬いてんのかお前」



しね、そう言って彼の頭をぽかと殴った。痛え、そう彼は顔を歪ませたがすぐ後に笑った。



「これ美味いから、やる」



要らないよ、断ろうとしたけど彼は私の返事を待たず先程
袋を開けたばかりの苺風味のクッキーを私の唇に押し付けた。
甘い、甘すぎる。こんなのばっかり食べるから幸村くんとかにお腹がたるんどるって怒られるんだ。
そんな皮肉の言葉は喉元まで来て引っ込んだ。彼が「美味いだろ、な?」と笑っていたからだ。




「俺お前の言うとおりお菓子とでも付き合えるかもしんねー」
「・・・何それ」
「うん決めた、俺お菓子と付き合うな」




お前が妬いてくれっからさ、と舌を出した彼に向かってもう一度しねばと言って
拳を向かわせたがそれは呆気なく避けられて、「俺とお菓子、お似合いだろ」と彼は笑った。
そのとき疼いていたもやもやが嫉妬の気持ちだなんて私は認めない、けれど。
だから皮肉たっぷりに「はいはい、お似合いですよこのばかっぷる!」とお菓子に申し訳なく思いながら小さく呟けば
「だろ、ばかっぷるですが何か?」と彼は何故か誇らしげに言ったのだった。








(認めたし、うっざ)(何言ってんだよ、お前と俺のこと言ったんだよ)



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彼からあたしへ様へ提出。ありがとうございました!

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