偶に見せる笑顔が、すごく格好良い人だと思った。 でもそれは本当に貴重で、その人の普段の笑い方といえば口元に手を当て薄くクツクツと笑う。 そんな笑い方はあまり感情がこもってないようで好きではなかった。 私が言っているのは、例えばクラスメイトの丸井くんと話しているときに見せるような、声をあげた笑顔。 そういう貴重な笑顔を私はいつも探しているのだった。 いつも見せている笑顔が、すごく可愛い奴だと思った。 休憩時間などにふとそいつが視界に入れば、ほぼ確実に友達数人と声をあげて笑っている。 偶に何か悩むようで、しばらく笑顔が見れないこともあるがそれはすぐにいつものような笑顔に戻る。 その笑顔に不思議と安心感を覚え、俺はいつもそいつの笑顔を追いかけているのだった。 ・・・ただ、最近は違う。 「・・・・・・はあ」 「・・・どうしたんだよ、仁王が溜息とかきも」 「ブンちゃんきもい言いよった、ひっどーい」 「・・・。俺でよかったら聞くけど」 「・・・・・笑わんのじゃ」 「は?」 「あいつが最近笑わんのじゃ」 そうだ、最近そいつの笑顔を見れていない。今回の悩みはそんなに厳しいものなのだろうか。 しかしまあクラスメイトとはいえそんなにそいつと親しくもない俺は理由なんて知らない。けどあいつは笑ったほうが可愛い。 いつものように笑えばいいのに、そんなことを思って彼女を見ると彼女もまた何故か俺の方を見ていてぱちりと目が合った。 すぐに逸らされたが、やはりそこに俺がいつも追いかけている笑顔は無かった。 「・・・・・・はあ」 「・・・どうしたの、あんたが溜息とか珍しい」 「あのね、最近笑わなくなったの」 「は?誰が」 「仁王くん」 「・・・仁王?」 そう、最近その人の笑顔を見つけられない。今だって丸井くんと話しているが何か悩んでいるようでその表情は曇っている。 仁王くんはクールなところが格好良いと女の子に人気だけど、私はそんな表情よりあの笑顔に見え隠れする無邪気さが彼の良いところだと思うのに。 もっと笑えばいいのに、そんなことを思って彼を見ていたら急に彼は私の方を振り返ったので慌てて視線を逸らした。 もちろん私が格好良いと思う笑顔は無かった。 「あいつってのが誰か知らねえけど・・・とりあえず聞いてみれば?」 「何て」 「どうして笑わないんだって」 「・・・阿呆か、」 ばからしかった。先程も言ったが、俺らはクラスメイトとはいえ親しくもなければ席も近くなったこともなく話したことが無い。 そんな俺が「なんで最近笑わんの?」――彼女の顔がみるみる曇っていくのが目に見えた。 第一なんでこんなに俺はそいつの笑顔を追うようになったのだろう。・・・やっぱり、ばからしいと思った。 「仁王が笑わないのはいつもじゃない?」 「ううん、ちゃんと笑うよ」 「じゃあ本人に聞けば?なんで笑わないのって」 「・・・そんなあ、」 無茶だった。私は彼とは話したことが無くて、そんな私が「どうして笑わないの?」なんて言えるわけがなかった。 というよりどうして私はその人の笑顔を探しているのだろう。・・・無茶とはわかっていても聞いてみよう、そう思った。 「ねえ、仁王くん!」 「・・・?お前、」 放課後のことだった。急に名前を呼ばれたかと思ったら・・・その声の主は彼女だった。 俺の考えていることがばれた?そんなわけない。「どうした?」と笑って聞けば「それ!」と彼女は俺の顔を指差した。 「俺?」 「なんで!」 「何が?」 「なんで最近笑わないの!」 いきなり私は何言ってるんだろう。振り返った仁王くんは目を大きくさせて私の名前を呼んだ。 「・・・俺も聞きたいんじゃけど、」 「何を?」 「なんで最近笑わんの?」 「・・・わ、私笑ってない?」 何故か私の疑問をそのまま返された。自分の頬っぺたを指差すと、仁王くんは大きく頷いた。 ・・・もしかして仁王くんの悩んでる理由って私?そんな、自意識過剰すぎる。 俺が質問を返せば彼女は自分の頬っぺたを指差した。うそ、そうだったんだーと彼女は呟いたあとに、「あれ?」と首を傾げた。 というか彼女も俺を見てたんだ。え、彼女の悩んでたことって俺?そう思うと俺は口元が緩んだ。 「・・・っ」 「・・・仁王、くん?」 「はは、あっははは!」 「あ、そう!それだよ仁王くん!今までなんでそういう風に笑わなかったの!?」 仁王くんが私の探していた笑顔を零した。・・・やっぱり悩んでた理由、あってたのかな。 なんて考えたら、彼の笑顔を見ていたら、私も不思議と笑いが込み上げてきた。 「・・・ふふ、何か私たち、」 「あれじゃな、」 似てる。そんなことを思ったが、その前に俺はあることに気づいた。あれだ、俺が彼女の笑顔を追いかけてた理由。 そうだ、彼女の笑顔に抱いていた安心感はきっと、 似てる。そう思ったけど、その前に私は何で彼の笑顔を探していたか。その理由が分かった。 そうだ、彼には無邪気な笑顔でいて欲しいと思ったのはきっと、 ご自慢の笑顔はどこいった -------- SweetStoryさま提出。ありがとうございました! |