□傘クラゲ
1ページ/2ページ

蓮の葉 開いて
泥んこの校舎裏
梅雨空に並んだ
二つの傘のクラゲ


雨が静かに降る。

糸みたいな、冷たい水。
傘に落ちる、その音だけが僕らの空間に響いた。


水溜まりをわざと踏む君の足音が散る。
君の靴はもう雨で濡れている。
少しだけ、君のほうに傘を近づけた。



見るものすべてが苦しいくらい。鮮やか、深海。
そこは夏になる前触れ。
水圧で深く濃いブルー。



蓮の葉に弾いた、雨粒は太鼓の音。
一秒の間も置かず鳴り続ける音は、僕の心臓と重なった。

なにも言わずに、僕たちは雨の道を歩く。
時々僕の腕にかかる雨が、冷たくて心地よい。

君はふと立ち止まった。
僕も止まる。
君は雨の空を見上げた。
さらさらと降る雨が、君の顔にかかる。
濡れているのを気にしないで君は、じっと空を眺める

君の長い黒髪が、雨に染まる。
細い毛先から、雨が降る。
白い肌がみずみずしく光る
長いまつげから水滴が零れる。

僕は君から目が離せない。


そこは夏になる前触れ。
水圧で深く濃いブルー。


雨が透けるビニール傘の真下では、永遠さえも近くに見えた。
君の右手と僕の左手。
触れ合ったとき、魔法にかかる。


柔らかい君の右手を握ったら、君は少しだけ驚いて、でも笑った。
蓮の葉の雨音は、前より速い。

君は僕の左手をほどいて、ビニール傘を折りたたんだ
そして、もう一度手をつないで、僕の傘に入った。

君の手は濡れていたけど、温かかった。



蓮の葉 開いて
泥んこの校舎裏
梅雨空に泳いだ
一つの傘のクラゲ


君の右手と僕の左手、触れ合ったとき、

魔法にかかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ