短歌

□秋の夜も…
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秋の夜も
名のみなりけり
逢ふといへば
ことぞともなく
明けぬるものを

小野小町



愛を伝えるのに、このよは短すぎる…



(秋の夜は長く、いつまでも明けないなんて嘘でした。恋焦がれた人に逢っているような時は、一言もことばを交わす暇のないうちに夜があけてしまうのですから。)



*久々に歌人の和歌の紹介です。
実はこの小町のうたは最近知ったのですが、あたしの小町の好きな歌ランキング1、2を争うほどに好きになった歌です。


この歌の一番好きなところは〈ことぞともなく〉
「事ぞともなく」と訳すのであれば、「何か事がおきるというわけでもなく」になります。
多くはこの用法なのですが、小町のこの歌は「言ぞともなく」、「肝心な一言を言う余裕もなく」なのです。

逢う前はたくさん言葉を用意して待っていたんですよね、きっと。
あれもこれもって想いはいっぱいあるんです。
だけど、いざ好きな人を目の前にしたら何も言えなくなる。
あんなに考えたセリフも出てこなくって、想いは溢れているのに、言葉にはならなくてとてももどかしいんです。
そんな風に逢瀬を過ごしていたらあっという間に時間が経ち、夜は明けてしまう。
結局肝心なことは伝えられないまま。
ため息吐きながら、もっと夜が長ければ、なんて思うんです。

そんな気持ちがとてもよくわかる歌だなぁって感動しました。
そしてまた、秋の物寂しさが伝わってくる、素敵な、さすが小町だと言いたくなる一首です。

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