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□好きで嫌い
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「何で君は…僕の事を好きだなんて言ったんだ」
付き合って半年も経過した頃、いつも通り二人で帰ろうと応接室に雲雀を迎えに行った。扉を開けたら直ぐに喉元に冷たいトンファーが押し当てられ…辛そうな雲雀の声。
「僕は…君の事なんて好きじゃなかったのに…!」
「…雲雀」
トンファーが床に落ちる。雲雀が山本の胸元のシャツを両手で掴んだから。
「僕は君の事が嫌いだ」
毎日山本の事で頭がいっぱいになるから。山本が側に居ない時には寂しさを感じるようになったから。君が存在しなければ良いのに。そしたら寂しさなんて感じずに済んだ。……知らずに済んだのに。
「…好きに、ならなければ良かった…!」
山本の胸元のシャツを引っ張り俯く雲雀。今にも泣き出しそうな様子に山本は雲雀の丸っこい後頭部を撫でた。
「雲雀が俺の事を好きって言ってくれたの、今のが初めてなのな…」
すげー嬉しい、と。ふんわり微笑む山本。雲雀は顔を上げて山本の顔を見る。
「僕がこんなに辛いのに。君は嬉しいの?…ムカつくから僕の前から消えなよ」
言葉とは裏腹に山本の胸元に顔を擦り寄せる雲雀。
「ははっ、消えないよ」
「だったら…」
ずっと僕の前から消えないで。そしたら君を好きになってあげても良い。…でも手遅れだね。嫌いな程に好きなんだ。
「君はさぁ、僕に酷い事をするんだね」
人を好きになるって事がこんなに辛い事なんて…君のせいで要らない感情に支配され続ける事になるんだね。
好きで嫌い。
END