・書物・

□月が見ている
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【月が見ている】


「ねー!十代聞いてる!?」
「聞いてる聞いてる」
「俺めっちゃ十代のこと好きなんだって!」
「わかったって。もうそれ10回ぐらい聞いたから」

落ち着けという意味を混めてヨハン頭を軽く叩く。ふと壁に掛けられた時計を見上げれば時計の針は深夜1時過ぎを指していて、明日が土曜日で良かったと軽く息を吐いた。まあ、次の日が休みだからたまには酒が飲みたいとヨハンが言い出したのがきっかけで、今の状況が出来上がったわけだが。

「弱いならなんで飲みたいって言ったんだよ」
「ええー?」

地元の友達が送ってくれたという赤ワインを空になった自分のグラスに注いでいくヨハン。自分から飲みたいと言い出したからにはどれだけ強いのかと思って眺めていれば、3口ぐらいでもう呂律が回らなくなっていて、今はもう今まで見たことないぐらいに顔が真っ赤で目尻も下がりきっている。これは確かに次の日が休みじゃなきゃ飲めないよなと心の中で納得していると、じゅーだいと甘えた声が鼓膜に響く。普段聞かないような声に一瞬鼓動が大きく音を立てるが、それに気付かれると相手が調子に乗りそうなので、冷静でいようと努める。しかし、振り向いた先にあったのはヨハンのニヤけた笑顔。

「ときめいたっしょ?」
「……多少」
「すなおーかわいいー」
「もう寝ない?ヨハン飲みすぎだって」
「おお!気が合うな!」
「え?」

じゃあ行こうか、と飛びきりの笑顔で俺の手を取るヨハンに背中を汗が伝う。俺が言った【寝る】とヨハンが言った【寝る】の意味が違うのは明らかで、しかし、訂正した所でこのご機嫌な酔っ払いには通じないだろうと何となく理解出来てしまって、深くため息を吐く。ヨハンに連れられてベッドに向かう途中に窓から満月が見えて思わず綺麗だなと呟くと、すぐに力強く抱き締められ、唇を塞がれた。

「…んっ……なに、どしたの」
「俺以外見ないで」
「わがままだなー」
「十代は俺のだもん」
「もんって…」

拗ねたように唇を尖らせるヨハンはまるで小さな子どものようで、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまったり。

「はいはい、もうヨハンしか見ないよ」
「ほんとー?」
「ほんと」

だから一緒に寝よう?と説得してみたが、それとこれとは話しが別らしく次の瞬間にはベッドに押し倒されていた。

やっぱブルー寮のベッドはふかふかだな、普通に寝たいなという希望は今夜は叶わないらしい。

「十代大好きー!」
「はいはい。俺も好きだよ」

end

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