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□「銀と黒猫」
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ブログ小ネタログ
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「…黒猫?」
久々に賭け事でぼろ儲けして上機嫌に鼻歌なんて歌いながら道を歩いていると、真っ黒な猫が俺の足元に近寄ってきた。
餌をねだっている…という感じではなく、一定の距離を保ちながら俺の周りをぐるぐると回ったり、じっとこちらを見つめてきたり。
どこか普通の野良猫とは雰囲気が違う気がして…ゆっくりその場にしゃがみ込むとその黒猫をじっと凝視した。
ちょこんと座る黒猫は至って普通の黒猫。
特に変わったところはなく、何に違和感を感じたのか自分でもわからなかった。
こちらが首を傾げれば、真似するように首を傾げる。
その仕草がなんだか可愛らしくて思わず笑みを零せば、黒猫の方から近づいてきて来て「にゃあ」と小さく鳴いた。
「なんだ?銀さんに惚れちまったか?」
なんて冗談めかしに言って頭を撫でてやろうと手を伸ばしたら、ふいっと軽く身をかわし逃げられてしまった。
けれど俺の目の前からは消えようとはせず、やはりじっとこちらを見つめてくるばかり。
「んだよ、お触りは禁止ってか?ったく、どっかの副長さんみてぇだな」
思わず突いて出てしまった言葉に後から恥ずかしさが追いつく。
確かにこの猫は美人の部類で、ぶっちゃけアイツが黒猫になったらこんぐれー美人なんだろうとは思いはしたが口にまで出すほど重ねてしまっているのは少々危険だ。
何が危険なの?とか聞くな。大人の事情だ、主に下半身事情。猫耳とかアイツ絶対似合うしとか思ってねぇし。猫耳にゃんにゃんプレイがしたいとか一言も言ってねェし。
「まぁ、暫く会ってねぇから仕方ねぇよな…」
自分自身に言い訳するかのようにポツリと呟けば、何を思ったのか、黒猫が俺の肩にピョンッと飛び乗ってきた。
「へ?ちょっ…お前俺に触らせてくれなかったくせに当然の如く肩に乗ってんじゃねェェェ!!!」
首根っこを掴んで引っ張り降ろしてやろうとした瞬間。
ふわりと香ったのは
なじみの煙草…土方の匂い…
けどそれはほんの一瞬で…
気づけばその香りはなくなっていた。
はぁ、と溜息をつくと横目でちらりと黒猫を見やる。
こちらを見つめる視線からは何も汲み取ることはできない…それでもコイツが俺の傍から離れないのは何か理由があるのだろう。
はぁ、ともう一度溜息をつくと目的を果たせなかった手で頭をガシガシと掻いた。
「………ウチ、来るか?」
返事をするかのように鳴いた黒猫がどこか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。
気のせい、かもしれない。
まぁ、どっちでもいいか。
「さて、なんて呼ぼうかね。………トシ…とか?」
「にゃ」
本日二回目のアホ発言にやっちまったあああ!と思った瞬間、まるで呼びかけに応えるように可愛く鳴かれて…
思わず噴き出すと黒猫の頭をグリグリ撫でまわしてやった。
end
言わずもがな黒猫は土方さん
2012/7/4