+ gintoki × hijikata +
□「言わせてあげる」
1ページ/1ページ
*茶会企画小説*
学生/強気受け/甘
***
体が熱い…
思考がうまく働かない…
こんなの―…
「ンっ………ふ、」
「なーんだ、やっぱ気持ちいんじゃん…キス」
こんなの…ズルい…
キッと銀時を睨みつければ、にやりと笑うその顔に怒りと欲情を覚えた。
「言わせてあげる」
早朝の教室っていうのは不気味なぐらい静かで、どこか異質な雰囲気が漂う。
それこそ、これから生徒達の声でうるさいほどの騒がしさになるなんて思えないほどに。
土方はそんな教室に一歩踏み入り、運動場側の窓へと足を向けた。
カラカラと窓を開け運動場に目をやれば、野球部とサッカー部の朝練風景が見える。
普段なら自分も剣道部の朝練に出ていてこんな風景を見ることなどないのだが、今日は部の朝練がない。
理由は、明日試合のある柔道部に道場を貸し切っているためだ。
道場は柔道部と剣道部の両部が使用しているため、試合前日だけその部に道場を貸し切るのが通例となっている。
しっかし、いつもなら動きまわってる時間帯に何もしてねぇのも暇だな…
すっかり朝練がないことを忘れて学校に来てしまった自分に、今更ながらに呆れた。
カタン、と小さく音を立てて自分の席に座ると、見慣れた教室の風景が映る。
生徒達が居ないと何十倍も静かで、まるで違う教室みたいだ。
けど一つだけ同じなのは…
俺が、ある人の席に目を向けてしまうこと。
俺の席は運動場側の窓席の一番後ろ。
そいつはその対角線上に位置する、廊下側の窓席の一番前。
一番離れているはずなのに、俺はその位置が好きだった。
机に頬杖とつき斜め前を見やれば、あいつの横顔が丁度見える。
一番離れているはずなのに一、番アイツがよく見えるんだ。
物思いにふけりながらボーッとその席を見つめていると、突然ガラッと教室のドアが開き、生徒が一人入って来た。
その姿にギョッとして思わず肩がビクッと跳ねてしまった。
「あれ?土方?」
なんでここにいるの?と首を傾げながら聞いてくる人物は俺の元まで歩いてくると、隣の席に躊躇なく座った。
フワッと銀色の髪が目の前で揺れ、心臓がトクンと音をたてる。
「朝練は?今日ないの?」
「あ、ああ。柔道部の貸し切り」
「あー…そっか。…ん?じゃあなんでこんな時間に来てんの?まさか間違えて来ちゃった、とか」
「…ウルセェ!!だいたいテメェこそなんでこんな時間に学校来てんだよっ!いつもは時間ギリギリに来やがるくせに…」
「んー…なんとなく?」
こっちは図星を突かれ居心地の悪い思いをしていると言うのに、銀時はヘラッと笑って曖昧な返事を返してくるだけ。
いつも通り、やはりどこか掴めない。けど、決して不快ではない…不思議な感覚だ。
「けどこれってさーなんか運命感じね?」
そしてこんな突拍子もないことを突然に言い出すんだ。
「はぁ?ンだそれ」
思わず“運命”なんて言葉にドキッとして、発した声が震えた気がした。
運命?なんだよ、それ…
お前、それどういう意味で言ってんだよ…
「だってさ、偶然が重なっていつもなら絶対合わない時間帯に鉢合わせしてんだぜ?運命感じるだろ?」
「…感じねェよ」
素直じゃない俺は、素っ気無い返事で“運命”なんて言葉をあしらった。
嬉しくなかったわけじゃない。
けど…いまよりもっと凄い運命を感じたことがあるから…
“運命”なんて言葉を使うなら、お前に初めて会ったときがすでに“運命”だった。
『おはよう、大串くん』
初めて言われた挨拶は驚くほどさわやかで、そして驚くほどムカついた。
ただの挨拶なのに…一瞬、その笑顔に目を奪われ息を呑んだ。
と、同時に“大串くん”などと自分ではない誰かの名前を口にされたことに、ひどく腹がたったのを覚えている。
そのおかげで俺の最初の挨拶は『誰が大串だァァァ!』と言う言葉とパンチ一発という、なんとも悲惨なものだった。
あとから考えれば、一目惚れしたあげく即行で嫉妬してしまった、なんて人に言えるような代物ではない出会いだったと思う。
だけどあの時が全ての始まり。
あれを運命と言わずして何と呼べばいいのか………俺は確実に恋に落ちていた。
「俺は―…」
不意に銀時がぽつりと呟いた。
反射的にそちらに視線を向けると、真っすぐに見つめてくる双眸と目が合う。
「俺は、お前と初めて会ったとき…運命だと思ったけどね」
土方は感じなかった?なんて聞かれて頭がショートしそうになった。
だってそんな…そのセリフの意味することなんて一つしかない、ないけど…
簡単に飲み込めない。
「っ…ンなの、知るかっ…」
銀時の言葉を振り払うかのように顔をそむけ、落ち着け落ち着け…と何度も自分に言い聞かせる。
しかしそんな俺に構わず、銀時は席を立つと土方の椅子と机に手を乗せ、にじりと体を近づけて来た。
咄嗟に窓側に体を引いたが大した効果はなく、どんどん近くなるその距離にバクバクと心臓の音が激しくなる。
耳に触れるぐらいまで銀時の唇が近づき、ゾクッと体が震えた。
「じゃあ、なんで真っ赤になってんの?いっつも俺のこと見てんのに自分が見られるのは苦手?」
「な、」
いつから知って…?なんて言葉が頭をよぎったが、銀時を見続けた月日が長すぎて、いつからなのか想像すらつかなかった。
とにかくどうにかこの状況を脱したくて、銀時の胸を押しのけ必死の虚勢を張った。
「どけ、…自意識過剰なんだよテメェは。別に俺は―…」
「俺のこと好きだよね?」
「っな、…なんでそうなるんだァァァ!!!」
「え?違ェの?」
「…っ、」
「否定しない…ってことはやっぱ好きなんじゃん」
「勝手に、話をホイホイ進めんなァァ!!何なんだよさっきから…!質問ばっかしやがってっ…」
俺をからかってんのかよ…
そう言おうとしたけど、声にならなかった。
俺との出会いを運命なんて言っておきながら、飄々とした態度ばかり見せる銀時に俺の想いは空回りしてしまっているようで…
銀時の真意が見えないこの状況がひどく怖かった。
銀時は俺の気持ちを…おそらく知っている。
…知っているくせにからかうようなことばかり言って、銀時が何を想っているかなんて全然見えてこない。
なぁ……お前にとって俺は、どんな存在なんだ…?
それをすんなり聞けたらどんなに楽か。
けど、やっぱり答えを聞くのが怖くて簡単に聞くことなんてできない…
キュッと噛みしめた唇に、銀時の指先がそっと触れた。
「この唇に…言わせないなーと思って…」
その言葉の先は聞かなくてもわかる。
気分は今すぐにでも両耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。
だが、ニッと挑戦的な笑みを浮かべる銀時の表情に、粟立つ体は固まったまま動かない。
「俺のこと好きって…言わせたい」
ああ…くそっ、
ダメだってわかってたのに…
そんな目で見られたら、そんな声で言われたら、そんな…
嬉しそうな顔をされたら…“好きだ“なんてすんなり言ってしまいそうになるじゃないか。
くそっ…俺ばかり翻弄されて、悔しい。
「はっ、誰が言うか。…その前にテメェに言わせてやる」
翻弄されまくって、ようやっと出た言葉はバカげた宣言。
言わせてやる、なんて言えるほど余裕なんてないけどこれが精一杯の対抗だ。
「じゃあ、先に言わせた方が勝ち…ってことで。ところでさぁ…」
銀時は俺のネクタイに手をかけながら、何か思い出したかのように話し始めた。
ネクタイを引っ張られたことで少し上を向くような角度にされた俺は、銀時に見降ろされる形にムッとして眉をひそめる。
「言わせてやるってことは、俺に“好き”って言って欲しいってことだよね?」
「!!!そ、それはっ……一方的にお前が言わそうとするからっ」
必死に反論してみるが、クスクスと笑みを零す銀時にはまったく効果なし。
それどころか…
「お前、可愛すぎ」
そう言ってキスで唇を塞がれ、一気に何も考えられなってしまった。
フッと鼻から抜ける息が耳を掠め、ゾクッと震える体。
「キス、キモチイイ?」
うっとりした表情で聞かれて、思わず縦に振りそうになった首をフルフルと横に振った。
ここで折れたら負ける…
銀時は、ふーん、と答えると再び深い口づけで唇を塞いだ。
体が熱い…
思考がうまく働かない…
こんなの―…
「ンっ………ふ、」
先ほどより熱を帯びた声が漏れ、体の変化に瞳が潤んだ。
「なーんだ、やっぱ気持ちいんじゃん…キス」
こんなの…ズルい…
キッと銀時を睨みつければ、にやりと笑うその顔に怒りと欲情を覚えた。
キスだけでこんなに乱れてしまう自分への憤りは、銀時を求める欲情で徐々に塗り潰されていく…
「もう降参?」
そんな言葉にフッと熱を含んだ息と笑みが零れる。
降参?まさか。こっからが勝負どころだろ?
「ンなわけあるか……ぜってー言わせてやるから覚悟しろ」
「望むところだコノヤロー」
そっちこそ覚悟しろよ?なんて言う銀時の目元は色香を漂わせて欲情に満ちていた。
それが嬉しくて…銀時のネクタイを引き寄せると自分から唇を重ねた。
応える銀時と熱が交り合う…
この勝負、どっちが勝っても結果は同じ…だけど、
…負けたくねぇな。
なんて、頭の片隅で思った。
end
***
ん?ちょっと強気×強気っぽくなった気がする(笑
余裕のある強気×余裕の無い強気…みたいな^^
土方さんをおろおろ(内面的な意味で)させるのが非常に楽しかったですw←
ここまで読んで下さり有難うございました!!
***