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□雲の間ぬって
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今日の雨は長い。
朝から降るかとは思っていたが、もう午後ではないか。
じめじめした空気はうっとうしい。本も湿る。空も見えぬ。
せっかく今日は一人だというのに。
ふと後ろに気配を感じた。
「雨は嫌いか?」
「…嫌いです」
本当は嫌いではない。しっとりとした空気は心静かとなる。
濡れた草木のむせかえるような甘い香りも、心地よい小雨の音も。
「だが濡れるのは嫌、か」
私の心を見通し、ふっと口許が動く。
近寄り、私の傍にしゃがんだその方から濃厚な緑の匂いを感じる。
この方と一緒なら、濡れるのも悪くないと思い、そこまで考えて思考も黙った。
くくっと隣から声が漏れた