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□光とともに
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心にぽっかりと…大きな穴が空いた。
家へ帰る気分にはなれず、小さな橋の高欄に座り、満天の星空を見上げていた。
…心の片隅で…“人間”としての生活は、いつか捨てなければならないかもしれないとは思っていた。
…どうしてカナちゃんでなければならなかったのだろう?…イヤ、カナちゃんだったからこそ…ボクは“血”を抑えることができなかったのかもしれない。
ボクの人間としての日常が…こんなにもあっさり壊れるなんて。
「…はぁ」
溜め息が止まらない。カナちゃんに妖怪へ変わるところを見られ…諦める決意をしたはずなのに。
「…やっぱりここにいた」
「…!?カ…カナちゃん!???どうして???」
ゆっくりと橋へ近づいて来るのは…ボクがつい先程決別を決めた人。
「リクオ君、小さい頃から嫌なことがあると良くこの橋に座ってたでしょ?だからもしかして…って思ったの」
カナちゃんはそれ以上何も言わずに、ボクの座っている隣に肘をつくと…ボクと同じように空を見上げる。
「……怒ってる…よね?」
「…もちろん」
ボク達の会話は、目を合わせることもなく続いてゆく。
「ごめんね…今まで隠してて」
「…違うよ。私が怒ってるのは…その事じゃないよ」
「…えっ?」
カナちゃんの言葉の意味がわからずに、思わず聞き返す。
「リクオ君ってば、家まで送ってくれるって約束したのに…私を置いてった事に怒ってるの!!」
「えっと…あの、さ。それは…ほら…」
あまりに予想外の怒りの矛先に、次の言葉が出てこない。
「…もしかして…明日から学校へ行かないつもりじゃないよね?」
「!?えっ…」
的確にボクの心を読むカナちゃんに…言い返す言葉が見つからない。
「…約束したよね?嘘なんかついても構わないから…遠くへ行かないで、って…」
大切な人との約束を忘れる訳がない。でも…
「…でも、ボクは妖怪で…一緒にいると危険なんだよ!?さっきみたいに妖怪に襲われる可能性だって高いし、いつカナちゃんが傷つくかもわからない…」
「それなら守ってよ!」
突然声を張上げたカナちゃんに驚き…ボクは言葉を止め、カナちゃんの顔を見た。
「…リクオ君はリクオ君でしょ?私にとってのリクオ君は…これまでとなんにも変わらないよ」
「カナちゃん…」
「…例え危険だとしても、私はリクオ君と…一緒にいたいよ」
そう言ってカナちゃんは笑ってくれた。
「…ありがとう」
カナちゃんのたった一言で、ボクの心は軽くなる。
「…それじゃ、そろそろ帰ろっか!!お腹空いちゃった!」
「うん!!今度はちゃんと送ってね!」
「わ、わかってるよ!」
ボク達は橋を離れ帰路につくと…カナちゃんがゆっくりと話し始めた。
「本当は…凄く驚いてて、聞きたいこともたくさんあるんだけど…少しずつ…ゆっくりでいいから…私にも教えてね」
「…うん」
闇が深くなればなる程、光の輝きは増してゆく。…丁度…夜空に輝く星のように。
…もう迷うことはなくなった。ボクが成すべきことは…ボクの全てで、隣に在る光を守り抜くこと。
もし願いが叶うのであれば…いつまでも、光とともに…。