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「………ふぅ…」

授業を終え、教科書を鞄に片付けながら…私は小さく息を吐いた。

いつもならクラスの違うリクオ君が私を呼びに来てくれて、一緒に帰るのが通例になっている。

でも今日は、組でなにか問題が起きたらしく…昼休み私に一声掛けると、慌てた様子で帰って行った。

『なにがあったんだろ…大丈夫かな…』

リクオ君自身、あまり正確な情報を得られていなかったのだから、私が状況を呑み込めていないのも無理はない。
…そして事態を理解できていないからこそ…この不安は、悪い方悪い方へと増幅してゆく。

「…はぁ…」

鞄を閉めたところで、もう一つため息をつくと…

「ねぇねぇ、カナ!!今から服見に行こうよ」

勢いよく教室に駆け込んで来た由衣が、そんな空気を掻き消すように笑顔で言った。

「ご…ごめん。ちょっと今日は…」

「えー…彼氏帰っちゃったんでしょ?たまには付き合ってよ」

「私も行きたいんだけど…ごめんね」

「ダメか〜…」

私が断ると、由衣は本当に残念そうな表情を浮かべる。
その大袈裟に落ち込むリアクションに、申し訳なく思っていると…由衣は何かを思い出したかのように、突然私と目を合わせた。

「そうだ!そういえば、紗香が見ちゃったらしいんだけど…この前の日曜、アンタの彼氏と見たことない女が、駅前一緒に歩いてたらしいよ?…カナ、なにか聞いてる?」

言い方に勢いはあるけれど…周りに気を配りながら、小声で問い掛けてくれる。

「えっ?あぁ…うん、たぶん知ってる子だから大丈夫」
『…間違いなく…及川さんだよね』

「そっか…それなら良いんだけど。…紗香が“めっちゃカワイかった”って言ってたし…カナが知らないとこで二股でもかけられてんじゃないかって、心配してたんだ」

「うん…ありがと」
『……やっぱり…“可愛い”よね』

もちろん、その事実は痛いくらい理解しているけれど…客観的な意見を聞かされると、やはり心は揺れる。

「あー!いたいた!!まだ行かないの?」

…その時、廊下から私達を見つけた紗香が“催促”にやって来た。

「カナは今日ダメなんだって。…それと、“あの事”も知ってたみたい」

「えっ!?なに?そうなの!??…めっちゃ悩んでたアタシがバカみたいじゃん…」

「なんか…ごめんね」

「いやぁ…まぁ、カナが謝ることじゃないんだけどさ」

…確かに、リクオ君と及川さんが二人で歩いているのを見つけてしまったら…そう思ってしまうのも頷ける。

「なんだぁ…またカナ行けないんだ。しょーがないから、由衣と行って来るか」

「…なんかトゲあるね、その言い方」

紗香のいつも通りの少しだけ毒を含んだその言葉に、私達は声を上げて笑った。

「それじゃ、そろそろ行こっか。…次は絶対だからね!」

「うん!バイバイ」

「じゃねー」

友達の笑顔に触れて…ちょっとだけ心が軽くなった気がした。

『……私は一体…何に縛られているんだろう…』

一人になり…また徐々に沈んでゆく心に戸惑いながら…私はマフラーを首に巻くと、急いで教室を後にした。
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