5万HIT記念リクエスト
□重ねた全て
2ページ/6ページ
「………ふぅ…」
授業を終え、教科書を鞄に片付けながら…私は小さく息を吐いた。
いつもならクラスの違うリクオ君が私を呼びに来てくれて、一緒に帰るのが通例になっている。
でも今日は、組でなにか問題が起きたらしく…昼休み私に一声掛けると、慌てた様子で帰って行った。
『なにがあったんだろ…大丈夫かな…』
リクオ君自身、あまり正確な情報を得られていなかったのだから、私が状況を呑み込めていないのも無理はない。
…そして事態を理解できていないからこそ…この不安は、悪い方悪い方へと増幅してゆく。
「…はぁ…」
鞄を閉めたところで、もう一つため息をつくと…
「ねぇねぇ、カナ!!今から服見に行こうよ」
勢いよく教室に駆け込んで来た由衣が、そんな空気を掻き消すように笑顔で言った。
「ご…ごめん。ちょっと今日は…」
「えー…彼氏帰っちゃったんでしょ?たまには付き合ってよ」
「私も行きたいんだけど…ごめんね」
「ダメか〜…」
私が断ると、由衣は本当に残念そうな表情を浮かべる。
その大袈裟に落ち込むリアクションに、申し訳なく思っていると…由衣は何かを思い出したかのように、突然私と目を合わせた。
「そうだ!そういえば、紗香が見ちゃったらしいんだけど…この前の日曜、アンタの彼氏と見たことない女が、駅前一緒に歩いてたらしいよ?…カナ、なにか聞いてる?」
言い方に勢いはあるけれど…周りに気を配りながら、小声で問い掛けてくれる。
「えっ?あぁ…うん、たぶん知ってる子だから大丈夫」
『…間違いなく…及川さんだよね』
「そっか…それなら良いんだけど。…紗香が“めっちゃカワイかった”って言ってたし…カナが知らないとこで二股でもかけられてんじゃないかって、心配してたんだ」
「うん…ありがと」
『……やっぱり…“可愛い”よね』
もちろん、その事実は痛いくらい理解しているけれど…客観的な意見を聞かされると、やはり心は揺れる。
「あー!いたいた!!まだ行かないの?」
…その時、廊下から私達を見つけた紗香が“催促”にやって来た。
「カナは今日ダメなんだって。…それと、“あの事”も知ってたみたい」
「えっ!?なに?そうなの!??…めっちゃ悩んでたアタシがバカみたいじゃん…」
「なんか…ごめんね」
「いやぁ…まぁ、カナが謝ることじゃないんだけどさ」
…確かに、リクオ君と及川さんが二人で歩いているのを見つけてしまったら…そう思ってしまうのも頷ける。
「なんだぁ…またカナ行けないんだ。しょーがないから、由衣と行って来るか」
「…なんかトゲあるね、その言い方」
紗香のいつも通りの少しだけ毒を含んだその言葉に、私達は声を上げて笑った。
「それじゃ、そろそろ行こっか。…次は絶対だからね!」
「うん!バイバイ」
「じゃねー」
友達の笑顔に触れて…ちょっとだけ心が軽くなった気がした。
『……私は一体…何に縛られているんだろう…』
一人になり…また徐々に沈んでゆく心に戸惑いながら…私はマフラーを首に巻くと、急いで教室を後にした。