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□A lie isn't told to my heart
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「…でね、でね…その雲が熊になって、私を全力で追いかけて来て…」
………マズい。
まさか俺がボーっとした一瞬の間に、ここまで話が飛躍するとは思わなかった。
大袈裟な身振り手振りで、必死に“何か”を伝えようとする井上と…申し訳ないくらい何一つ理解出来ない俺。
…確か数秒前までは…“街で見つけたシュールな看板”について話していたはずだ。
「な、なぁ…井上。なんでこの話になったんだっけ?」
脳が悲鳴を上げ、いくら考えても思い出せそうにないと判断し…仕方なくやんわりと問い掛ける。
「えっ?シャドーボクシングしながらフルマラソンを走り切ったらどうなるか…って話からだけど…???」
「はぁ!??」
『……な、なるほど…どうやら最初から俺はついていけてなかった…ってことか』
「ご…ごめんね!私の話なんかつまんないよね!!」
「いや、そうじゃねぇって!ちょっと寝不足で意識が飛んでる間にわかんなくなっただけで…井上が謝ることじゃなくて…」
どう俺が言い訳しようと、井上は困ったような顔で謝って来る。
突拍子がなく、話のテンポも内容も次々と変わってゆく井上の話は…ついていけないことがほとんどだが…間違いなく“面白い”部類に属する。
ただ、まぁ…確かに“話の内容”は、あまり重要じゃないのかもしれない。
楽しそうに話す、井上と一緒にいられること。
…それが俺にとって、なによりも“楽しい”ってことは…まだしばらく伝えられそうにない。
〜A lie isn't told to my heart〜