ショートストーリー

歌手 THE SINGER
1ページ/1ページ

クラブ松の木―――。

夜10時、ケイコはマイクを軽く握って歌を歌った。

伴奏は[ロケッツ]と言うバンドだ。

[奴のハーモニカ]という英語の歌だった。

彼女は英語で歌った。

歌と演奏が終わって観客が拍手した。

ケイコはカウンターの客席に行って男性客の隣に腰を下ろした。

「刑事さんみたいね」ケイコは言った。

「わかったかい」男は言った。

「まあね」

「違うよ。刑事じゃないよ、僕は」

「冗談です」彼女は笑った。

男は辺りを見た。

「歌良かったですよ」

「一杯もらおうかな」

彼はバーテンにワインを注文して彼女にやった。

「ここは初めてなの」

「うん」

男は麻薬潜入捜査官だった。

「そろそろ帰ろうかな」

彼は会計を済ませて店の外に出た。

それっきりその男はクラブ松の木には現れなかった。
店の者もその男のことはわからない。

数十年前、第三次世界大戦が始まったのだった。

(おわり)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ