ショートストーリー
□歌手 THE SINGER
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クラブ松の木―――。
夜10時、ケイコはマイクを軽く握って歌を歌った。
伴奏は[ロケッツ]と言うバンドだ。
[奴のハーモニカ]という英語の歌だった。
彼女は英語で歌った。
歌と演奏が終わって観客が拍手した。
ケイコはカウンターの客席に行って男性客の隣に腰を下ろした。
「刑事さんみたいね」ケイコは言った。
「わかったかい」男は言った。
「まあね」
「違うよ。刑事じゃないよ、僕は」
「冗談です」彼女は笑った。
男は辺りを見た。
「歌良かったですよ」
「一杯もらおうかな」
彼はバーテンにワインを注文して彼女にやった。
「ここは初めてなの」
「うん」
男は麻薬潜入捜査官だった。
「そろそろ帰ろうかな」
彼は会計を済ませて店の外に出た。
それっきりその男はクラブ松の木には現れなかった。
店の者もその男のことはわからない。
数十年前、第三次世界大戦が始まったのだった。
(おわり)