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□残月
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「………みつ…な…り」





朦朧とする頭で、愛しい名を呼ぶ。



しかし、目の前にいるはずの石田三成からは返事が無い。


彼は静かに、地に横たわっている。




関ヶ原……



今、家康の力によって東軍の勝利に終わろうとしていた。



兵達が勝時の声をあげるのが聞こえる。



関ヶ原に響く、大歓声。



ヒュッと風を切る音がした。



「我らは役目を果たした。契約は終了だ」



凛とした佇まいの女性が横に立っていた。



「孫市………お前達が、三成を倒したのか」



その言葉に孫市は不機嫌そうに眉をあげた。



「そうだ。それが貴様と我らの契約だ。何か不満か」


「…いや、そういうわけではない」



「ならば契約は終了だ。我らは我らの役目を果たした」



孫市は、銃を撃ち鳴らすとスタスタと去って行った。


「………役目、か」



そう、これがワシの役目だった。



凶王、石田三成率いる西軍を倒し日の本を1つとする。



どちらか一方が負け、そして死ぬ。



ワシは負けるわけにはいけなかった…。


様々な言い訳を考えても、目の前の悲しみから逃れることはできなかった。



「………三成…」



お前は、ワシを憎んでいたな。




どうかそのまま、ワシを許すな。




「……せめて死に際にくらい側に居させてくれよな…ハハッ…孫市は手厳しい…」




落ちる涙が、止まらない。



横たわる三成の肌は普段より更に白く、冷たい。



砕け散った、宵の月。




「三成……ワシは…」



お前がどんなにワシを憎もうが、お前を完全に敵と見なすことはできなかった。


『家康!』



お前は昔も、いつも怒っていたな。



態度は傲慢で、秀吉にしか興味を示さなかった。



世間はワシを太陽と呼ぶが、三成にとってワシは蛍の光ほどの明るさにも見えなかったのだろう。



……それでも。



だからこそ、稀に見せる笑顔が魅力的だった。



それはワシに向けた笑顔ではなかったが、それでも構わなかった。




『…家康。貴様なら、私を理解できると思っていたのに…』



そう言った彼の顔は儚げで。




この男を、護らねばいけないと思った。




……思ったのに。




『家康ぅう…貴様を許さない!』



…いつの間にか、取り返しがつかないことになっていた。



ワシが秀吉を殺さなかったら、運命は変わっていただろう。




国か、三成か。




…ワシは、国を選んでしまった。





…そして。





「すまない…三成…すまない…」




月はもう昇ることのない。

家康は呟いた。



平らな世を……




お前が居なくなってこの日の世界は、寂しいものになってしまうけれど。



お前を殺してしまった罪、この家康が償うのにできることは日の本の安寧をまもることだけだから。




お前はそれを気に食わないだろう。しかし、ワシが立派にこの国を豊かにすれば…きっとお前は口の端をちょっと上げて「貴様にしてはまぁまぁだな」と言ってくれるだろう。





家康は静かにその場を去った。





もうじき日が暮れる。




その時美しく世を照らすのは………残月。







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