〜小説〜【江戸】


□君の暖かさ
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もう、春の風が舞い込んでくる

冷たく痛いものでもなく暑くて気持ち悪いものでもない

優しくてふわりと包み込むこの風・・・

「そろそろだな・・・」

優しい春の風に誘われ立ち上がる

屯所にも風は十分来るが特別気持ちの良い場所がある

毎年行くアノ場所

随分遠いが今は違う、昔は歩いて行ってたからな・・・

天人の開発した乗り物だとあの頃の苦労を考えると・・・じゃなくて

い、今は楽でいいな・・・うん。これだ

座席の中で居眠りをしていればすぐつくだろう・・・そう思い段々夢の中に入っていく












・・・十四朗・・・さ・・ん・・・

・・・・・・十四朗・・さん・・

・・・・・・

「・・・どうしたのかしら」

声がする俺を呼んでいる女の声

・・・どこか懐かしいこの声

―――この声は―――!?

起き上がろうとするが身体が動かない

「・・・ミツバ・・・」

「あ、無理しないで。よかった、十四朗さん…体は大丈夫かしら…?」

「ん、体…?・・・・」

「ううん、怪我なんて・・・どうしたの?」

「・・・ちょっと喧嘩してただけだよ」

「そう、、、それで、、あら総ちゃんおかえりなさい」

「ただいまァー姉上っ、てんめっ!なんで俺ん家に居んだよ!?」

そこには幼い子供がこちらを睨み敵意をむき出しにしていた

「あー…おかえりっス…先輩」

わざと反対の方向を見て言えば「クソッそれが、先輩への態度かぁ!」と叫んでくる

あーうるせー・・・これだから餓鬼は・・・

「あっ、てめー今・・・

「総ちゃんダメ・・・よ・・・














・・・私、十四朗さんの傍にいたい―――

「知ったこっちゃねーんだよ…お前の事なんざ…」―――

本当は、本当はこの言葉と反対のことを言いたかったんだ・・・


誰よりも愛しい人


傷つけたくない大切な奴


だからこそ一緒に居てはいけない


いつか・・・いつか、ただ『幸せ』になって欲しかった


「・・・わかってる、私のことが十四朗さんにとって・・・わかってるわ・・・」

違う

「それでも・・・」

気付くとミツバが俺の背中に抱きついていた

「なっ・・・!!」

「ごめんなさい、それでも、どうしても一度だけ・・・」

「・・・」

「・・・十四朗さん・・・大好きでした・・・」

―――――!!?――――

あぁ、意識が遠くなる・・・










「土方さん」

「副長!」

「・・・あ・・総悟、山崎・・・」

「どうしたんですかィ?ダセーことにうなされてましたぜ?」

「そうですよ、珍しいこともあるんですね」

うなされる・・・?あ、俺は・・アノ場所に行こうとして・・・

「なんで俺が屯所にいるんだ?俺ァ・・・」

「武州に行こうとしてたみたいですね。途中で倒れたみたいですけど・・・覚えてないんですか?」

「そうでさァ・・・全く良い迷惑ですねィ鬼の副長ともあろうお人が・・・」

「倒れた?そりゃあ、迷惑かけたな悪ィ・・・」

「じゃあ、もう少し休んだ方がいいですよ。疲労がなんたら・・・とか」

「ああ」

二人は俺の部屋を跡にした

「あれが・・・夢・・・?」

あの懐かしさ

それでもどこか違う気がしたが

あの背中のあたたかさまだ残ってる気がする

――――十四朗さん・・・

「だあァァァ!クソッ!」

俺ってこんなに女々しかったか?


アノ場所にいこうとした


ミツバに一緒に行きたい、傍にいたいと言われた場所

だからか?

あんな夢・・・

 
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