BASARA短文
□桜前線北上中
1ページ/8ページ
「やっぱいいねぇ、満開の桜は」
とある茶屋の一角にて、団子を片手に桜の木を見上げるは前田の風来坊こと前田慶次。
桜前線の北上と共に信濃は上田へと足を運んだ。
京都ではすっかり散ってしまった桜も、ここ上田では今が見頃。
「京の桜も見事なもんだが、上田の桜も負けちゃいないね」
「…当然でござる」
やや不機嫌に応える、上田城を預かる真田幸村は、突然の客人のあしらいに困っていた。
幸村は正直、この客人が苦手であった。
以前押し掛けられた際に散々な目にあったのも理由の一つだが、何より、
「やっぱり春にはさぁ、“恋”だよなぁ」
「…な!?そ、そのような、軟弱なことっ…!」
客人が何かと持ち出す恋愛論は、この様な話にてんで疎い幸村にはとてもではないが耐え難いものであった。
「よく言うだろ?『春は恋の季節』ってさ。あんた、その様子だと…もしかして初恋もまだかい?」
“初恋”…どことなく青臭い響きをはらんだ言葉に、思わず赤面する。
「はっ…はつ、こ、い…破廉恥なっ…」
自分が言葉を発する度に、まるで茹で蛸の様に顔を紅潮させる幸村が可笑しくて、思わず慶次は目を細めた。