BASARA短文
□懸命の銘
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青々と茂る木の葉を揺らすは葉月の風。
耳に付く蝉の声は人の世の喧騒に似て。
溢れ来る感情を殺す術を身に付けたのは、何時のことだっただろう。
それでも己の全てを消し去ることは出来ずに
忍らしからぬ強い意志は未だ心の奥に潜む。
華やかな街に、弾ける笑いに
憧れを抱かなかったと言えば嘘になるだろうが
己を包むは戦場の音。
それだけでいい。
なんと無慈悲な音だろう。
だが、それがどうだと言うのだ。
誰も不協和音など望まないのに。
“俺はこの世に何を残せるだろう?”
己は忍だというのに。
そんなこと、望むもんじゃない。
笑えない―情け容赦ない現実だ。それがどうした。
己と同じ立場の人間など
この戦乱の世に五万といる。
隙を見せれば今もまた。
交差する光に討たれ、巨木の陰に消える気配。
『一升貸して二斗取る、利取る、利取る』
空に謳う鳥の声。
この世の真理。
どれほどの者達が
この真理に飲まれていったのだろう。