BASARA短文

□月に惑う
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まるでここは、深く暗い坑の底だ。

あの望月はただ唯一の出入り口。
果てなく遠い、辿り着くことなど永遠に叶わぬ―



『月に惑う』



全く、あの母子は一々鼻につく。
実兄に斬られた、あの男の顔。
実子に実子を斬られた、あの女の目。
この手に未だ残る感覚。
同じ血の流れる者を斬ったというのに、感覚だけは全くの他人を斬ったそれと寸分と違わない。

―違うのは、心の在り方。

例えこの世から存在が消えたとしても、母の愛を受けていたのはあの男であり、それはこれからも変わることはない。
今更悔しいとも、憎いとも思わない。

―なのに心がざわめくのは、きっと、あの月のせい。決して届かぬ、あの月の―
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