BASARA短文
□やさしいかげ
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戦が終わって館に戻れば主は自室に閉じこもる。
どうしたものかと伺い見れば、血にまみれた一対の愛槍をただひたすらに磨いている。
いつもの事なのに。
いつも通りの光景なのに。
何故こんなにも切なく、悔しいのだろう。
北の双竜は天に還った。
地の果てかもしれないけれど。
隻眼の竜はその右目を失ったとき
荒ぶる竜神の目で主を睨んだ。
竜の右目はその主を置いて先立つ時、一体何を思ったのだろう。
俺は何を思うだろう―――主は何を―――
「佐助」
不意に呼ばれたものの、何時もの事、特別驚く事じゃない。
「何?旦那」
呼ばれるのを常に待っているかのように、直ぐに返答する。
しばしの沈黙の後に。
「―お前は死ぬな」
その幼い顔に不釣り合いなほど真剣な眼差しを
こちらに向ける事もなく
ポツリと主は呟いた。