BASARA短文
□桜前線北上中
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幸村はすっかり慶次のペースに飲まれていた。
何時もならあっという間になくなってしまう団子も、まだ一串しか手をつけていない。それも一玉の団子が串に残っている状態である。
そんな幸村を余所に、慶次は己の連れる小猿に小さく千切った団子を与えつつ、茶を啜っている。
「あんたぐらいの歳になれば、恋の一つや2つ、経験してるもんだけどね」
団子の串を指先でくるくると弄び、何やら思案している幸村に少しからかい気味に声をかける。
「――慶次殿は、」
慶次の言葉を聞いていたのかいないのか定かでないが、幸村は躊躇いがちに口を開いた。
「慶次殿は、そう言うからには当然、その…」
言葉が見つからないのか、目が泳いでいる。
「なんだい?」
口ごもるばかりでなかなか続きを話さない幸村の顔を見やれば、その頬は赤く染まっている。
「慶次殿は、はっ…はは、初恋っ…は済ませたのでござろうか!」
慶次の目を見据え、途切れながらも一気に言葉を吐き出す。
しかし、己の言葉があまりに羞恥にまみれた言葉に思え、瞬時に視線を外した。