BASARA短文

□鴉は北へ、鶏(トリ)は地に。
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朝の一声ってぇのは、あっしにとって格別なものでさァ。
おっと、すいやせん。あっしはだだのしがない鶏。この武田の屋敷の庭先で、毎朝一声鳴いて寝ぼすけ共を起こして…いたらいいんすがね。

それが鶏の仕事じゃないかって?分かってまさァ。それが出来ないから、こうやって見知らぬアンタに愚痴ってんのさ。

ここの武将の一人にね、真田幸村って若造がいるんすが…コイツがあっしの仕事を奪っちまってね。

あっしが鳴こうとするのと丁度同じ時間に起きては、『うおぉぉぉ!!!』だの『漲るぁぁぁ!!!』だの叫んで、みーんな起こしちまう。

おかげであっしは欲求不満だわ、北の方から来る片目のあんちゃんに『鳴けねえ鶏はだだの鳥だ』とか訳分からねえ事を言われるわ…ホント参っちまいまさァ。

陽が登ってきやした…さて、そろそろ鳴くとしやすか。

もっと早い内に鳴けばいいとか野暮な事は言わねえでくだせェ。いつの間にやらあの若造を好敵手と認めちまってさ。
笑いたきゃ笑ってくだせェ。でもあっしはこの時に命を懸けてましてね。

なぁに、負けても悔いはねぇ。
明日に希望が見いだせるってぇのも幸せでさァ。

そいじゃ、やりやすか―
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