BASARA短文
□月に惑う
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不安に揺れる心を落ち着かせる為と、身体を冷やす夜風を遮るため、障子を閉める。
部屋には、障子越しに届く弱い月明かり以外に灯りはない。
「政宗様」
襖を隔て声が聞こえる。
「入れ」
心の内は孤独でありたい筈なのに。
このやわらかい暗闇に一人身を置くことが酷く恐ろしいことに思え、思わず声の主を招き入れた。
「夕餉の仕度が整ったことをお伝えに参っただけなのですが」
「少し、話をしたくてな」
少し間をおき襖が開く。
「このような暗闇で何をなさっているんですか。灯りを入れますよ」
呆れたように言いながら、招き入れられた男は燭台に火を灯す。
「…母と弟のことを考えていた」
ほのかな橙に照らされた自分の顔は、一体、この男にどう映っているのだろう。
何時もと同じ印象を保っているつもりではいるが、この男には、きっと通用しない。